メリット制


メリット制(徴収第条)

(1) 意義

労災保険率は、事業主間の負担の公平を期するため、事業の種類ごとに過去3年間の災害率に応じて定められているが、事業の種類が同じであっても、事業主の災害防止努力のいかん等によって、個々の事業ごとの災害率はかなりの高低が認められる。そこで、事業主の負担の具体的公平を図るとともに、事業主の災害防止努力を促進するために、一定規模以上の事業については、個々の事業の災害率を高低に応じ、労災保険率(継続事業及び一括有期事業の場合)又は確定保険料の額(有期事業の場合)を、一定の範囲内で引上げ又は引き下げることとした。これを労災保険率ないし確定保険料のメリット制という。

・雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業にメリット制が適用されることはない。

(2) 継続事業(一括有期事業を含む)のメリット制(法12条3項、則17条2項、3項)

①要件

次に掲げる事業の規模、事業の継続性及び収支率の3要件のすべてを満たした場合に、メリット制が適用される。

a 事業の規模

連続する3保険年度中の各保険年度において、次のいずれかに該当する事業であること

イ 100人以上の労働者を使用する事業

ロ 20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって災害度係数が0.4以上であるもの

ハ 一括有期事業である建設の事業又は立木の伐採の事業については、当該保険年度の確定保険料の額が100万円以上であるもの

◎災害度係数

労働者数に当該事業と同種の事業に係る労災保険率から非業務災害率(1000分の0.9)を減じた率を乗じて得た数をいう。例えば木製品製造業(労災保険率は1000分の21)で、労働者数が20人の場合は次のようになる。

 

・労働者数は次のようにして算定する。(則17条)

(原則)

当該保険年度中の各月の末日(賃金締切日がある場合は、各月の末日の直前の賃金締切日)の使用労働者数を12で除して得た数が労働者数となる。

(例外)
船きょ、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業の場合は当該保険年度中に使用した延労働者数を当該保険年度中の所定労働日数を除して得た数が労働者数となる。

・労働者を使用するメリット制の適用に当たっては、その事業について特別加入した中小事業主等も労働者数に算入される。

b 事業の継続性

連続する3保険年度中の最後の保険年度に属する3月31日(基準日)において、労災保険に係る保険関係が成立した後3年以上経過している事業であること

c 収支率

連続する3保険年度間における収支率が100分の85を超え、又は100分の75以下であること

◎収支率

簡単にいうと、基準日以前3保険年度における業務災害に関する給付額と業務災害に係る納付額基準日以前(3)保険年度における業務災害に関する給付額と業務災害に係る納付額の収支の割合のことであるが、基本的算出式は次のようになる。

 

イ 保険給付の額及び特別支給金の額

次の額は、収支率に係る保険給付の額の算定の基礎からは除かれる。(特別支給金の額もこれに準じる)

ⅰ 障害補償年金差額一時金

ⅱ 遺族補償一時金(いわゆる失権差額一時金の場合)

ⅲ 通勤災害に係る保険給付

ⅳ 二次健康診断等給付

ⅴ 特定疾病にかかった者に係る保険給付

ⅵ 第3種特別加入者に係る保険給付

・収支率の算定基礎に含まれるのは、業務災害に関する給付額や保険料額であり、通勤災害や二次健康診断等給付に関する給付額や保険料は算定基礎に含まれない。

・第1種特別加入者に係る給付額や保険料額は収支率の算定基礎に含まれるが、第3種特別加入者に係る給付額や保険料額は算定基礎に含まれない。(海外での事故の責任を事業主に帰属させるのは困難であるため)

・厚生労働省令で定める特定疾病(いわゆる職業病)には、港湾貨物取扱事業又は港湾荷役業における非災害性腰痛、林業の事業又は建設の事業における手指、前腕等の振動障害、建設の事業におけるじん肺等があり、当該疾病の発症までに比較的長期間を要し、当該疾病の発生に係る責任を最終事業場の事業主に帰属させることが困難であるため、収支率の算定に当たっては保険給付の額及び特別支給金の額から除かれる。

ロ 労災保険料の額

基準日以前3保険年度間の一般保険料の額のうち、労災保険率(メリット制の適用があった場合は、それにより引上げ又は引き下げられた額に応ずる部分の額)から非業務災害率に応ずる部分の額を減じた額をいう。

ハ 第1種特別加入保険料の額

基準日以前3保険年度間の第1種特別加入保険料の額から特別加入非業務災害率に応ずる部分の額を減じた額をいう。

ニ 第1種調整率

業務災害に関する年金たる保険給付に要する費用、特定疾病にかかった者に係る保険給付に要する費用その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率をいうが具体的には次のとおりである。

 

業種

第1種調整率

林業の事業

100分の51

建設の事業

100分の63

港湾貨物取扱事業又は港湾荷役業の事業

100分の63

上記以外の事業

100分の67

 

②メリット制適用の効果

(原則)

収支率に応じて、その事業についての労災保険率(基準労災保険率)から非業務災害率を減じた率を100分の40の範囲内において引上げ又は引き下げた率に非業務災害率を加えた率を、その事業についての基準日の属する保険年度の次の次の保険年度の労災保険率(メリット労災保険率)とすることができる。

 

(例外)

一括有期事業である建設の事業又は立木の伐採の事業については、100分の35の範囲内において引き上げ又は引き下げられる。

要件満たす保険年度

要件満たす保険年度

要件満たす保険年度

要件満たす保険年度

満たさない保険年度

要件満たす保険年度

要件満たす保険年度

 

        

③特例メリット制

a 要件

次の要件を満たす事業主の行う事業の場合、継続事業のメリット制の適用における労災保険率から非業務災害率を減じた率の上げ下げの範囲が、100分の40から100分の45に拡大される。

イ 中小事業主であること

ロ 連続する3保険年度中のいずれかの保険年度において、労働者の安全又は衛生を確保するための措置を講じたこと

ハ 当該措置が講じられた保険年度のいずれかの保険年度の次の保険年度の初日から6箇月以内に労災保険率特例適用申告書を提出していること

◎中小事業主

次に掲げる数以下の労働者を使用する事業主をいう。(則20条の2)

事業の種類

常時使用労働者数

金融業、保険業、不動産業、小売業

50人以下

卸売業、サービス業

100人以下

上記以外の事業(原則)

300人以下

 

◎労働者の安全又は衛生を確保するための措置

ⅰ 労働安全衛生法70条の2、1項の指針「事業場における労働者の健康の保持増進のための指針(s63公示1号)」に従い事業主が講ずる労働者の健康の保持増進のための措置であって、厚生労働大臣が定めるもの

ⅱ 労働安全衛生規則61条の3,1項の規定による認定(快適な職場環境の形成のための措置として適切である旨の都道府県労働局長の認定)を受けた快適な職場環境の形成のための措置の実施計画に従い事業主が講ずる措置

ⅲ その他、労働者の安全又は衛生を確保するための措置として厚生労働大臣が定めるもの

b 申告の手続(則21条の4、5)

労災保険率特例適用申告書は、労働者の安全又は衛星を確保するための措置が講じられたことを明らかにすることができる書類を添えて、所轄都道府県労働局長を経由して厚生労働大臣に提出しなければならない。

・労災保険率特例適用申告書に記載された事項のうち、事業主が講じた労働者の安全又は衛星を確保するための措置及び当該措置の講じられた保険年度については、所轄都道府県労働局長の確認を受けなければならない。

c 特例メリット制適用の効果

その事業についての労災保険率(基準労災保険率)から非業務災害率を減じた率を100分の45の範囲内において引き上げまたは引き下げた率に非業務災害率を加えた率が、その事業についての連続する3保険年度中の最後の保険年度の次の次の保険年度の労災保険率(特例メリット労災保険率)とされる。

 

・特例メリット制はメリット制が適用される保険年度に限り3年間適用される。

・一括有期事業について特例メリット制が適用されることはない。

 

(3) 有期事業のメリット制(法20条)

①要件

次に掲げる事業の規模及び収支率の2つの要件を満たした場合に、メリット制が適用される。

a 事業の規模

有期事業である建設の事業又は立木の伐採の事業が次のいずれかに該当すること。

イ 確定保険料の額が40万円以上であること

ロ 建設の事業にあっては請負金額が1億2000万円以上、立木の伐採の事業にあっては素材生産量が1000立方メートル以上であること

b 収支率

次のいずれかに該当すること。

イ 事業が終了した日から3箇月を経過した日前における、第1種調整率を用いて算定した収支率が100分の85を超え、又は100分の75以下であって、その割合が、事業が終了した日から3箇月を経過した日以後においても変動せず、又は厚生労働省令で定める範囲を超えて変動しないと認められること

ロ 事業が終了した日から9箇月を経過した日前における、第2種調整率を用いて算定した収支率が100分の85を超え又は100分の75以下であること

◎第2種調整率

 

業種

第2種調整率

建設の事業

100分の50

立木の伐採の事業

100分の43

 

・一括有期事業に対するメリット制の収支率の算定に第2種調整率が用いられることはない。(第1種調整率が用いられる)

            
②メリット制適用の効果

その事業の確定保険料の額(労災保険率に応ずる部分の額に限る)について、その額から非業務災害率に応ずる部分の額を減じた額が100分の35の範囲内において引き上げまたは引き下げられる。

③有期事業のメリット制適用に伴う差額の徴収、還付又は充当の手続

メリット制適用後の確定保険料の額と既に納付済みの確定保険料の額との差額は、徴収されるか、還付又は充当されることになる。

a 差額の徴収(法20条2項、則35条4項、則38条5項)

所轄都道府県労働局歳入徴収官は、メリット制の適用により確定保険料の額を引き上げた場合の差額を徴収しようとするときは、通知を発する日から起算して30日を経過した日(当日起算)をその納期限と定め、事業主に納入告知書によって、引き上げられた額と納付済みの額との差額及び納期限を通知しなければならない。

・納入告知書により通知が行われるのは次の場合である。

イ 確定保険料の認定決定及び追徴金

ロ 印紙保険料の認定決定及び追徴金

ハ 有期事業のメリット制の適用による確定保険料の差額徴収

b 差額の還付(則36条1項)

事業主がメリット制の適用によって引き下げられた確定保険料の額について通知を受けた日の翌日から起算して10日以内に、労働保険料還付金請求書を所轄都道府県労働局資金前渡官吏に提出したときは、同資金前渡官吏が当該引き下げに伴う差額を還付する。

c 差額の充当(則37条)

事業主による還付請求がない場合には、所轄都道府県労働局歳入徴収官は、当該引き下げに伴う差額を未納の労働保険料その他徴収法の規定による徴収金に充当する。

・充当する場合は、事業主の請求ないし承認を必要としないが、所轄都道府県労働局歳入徴収官は、充当した旨を事業主に通知しなければならない。

 

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