傷病(補償)年金


傷病(補償)年金(労災保険法第12条の8)

業務上または通勤によって負傷し、又は疾病にかかった労働者が、その療養のために長期間にわたって休業することとなった場合、休業(補償)給付をその都度請求に基づいて支給することは手続き上繁雑となるため、所轄労働基準監督署長の職権により傷病(補償)年金の支給決定が行われ、以後は自動的に年金として支給される。

原因が業務上の場合は「傷病補償年金」と、通勤上の場合は「傷病年金」という名称となる。

給付内容が同等なので両給付を合わせて「傷病(補償)年金」とする。

(1)支給要件(法12条の8、3項)

傷病(補償)年金は、業務上または通勤によって負傷し、又は疾病にかかった労働者が、その傷病に係る療養の開始後1年6箇月を経過した日において次のいずれにも該当するとき又は同日後、次のいずれにも該当することとなったときに、その状態が継続している間、当該労働者に対して支給される。

① 当該負傷又は疾病が治っていないこと

② 当該傷病による障害の程度が傷病等級(1級から3級)に該当していること

  • 障害の程度は6箇月以上の期間にわたって存する障害の状態によって認定される。(則18条2項)
  • 療養開始後1年6箇月を経過した日とは、療養の開始日の属する月の翌月から起算して18箇月目の月において当該療養の開始日に応当する日(応当する日がないときは、月の末日の翌日)をいう。従って、平成12年10月30日に療養を開始した場合には、平成14年4月30日が、平成12年10月31日に療養を開始した場合には平成14年5月1日が、それぞれ療養開始後1年6箇月を経過した日となる。(通達)

(2)支給額(法18条1項、別表1)

傷病等級 年金額
1級 給付基礎日額の313日分
2級 給付基礎日額の277日分
3級 給付基礎日額の245日分

(3)支給の決定(則18条の2、1項)

業務上または通勤によって負傷し又は疾病にかかった労働者が、療養開始後1年6箇月を経過した日又は同日後において当該傷病が治っていない場合には、所轄労働基準監督署長が職権により傷病(補償)年金の支給を決定する。(受給権者が請求するものではない)

  • 傷病(補償)年金は政府の職権により支給されるので時効の問題は生じない。
  • 具体的な手続は次のようになる。

①所轄労働基準監督署長は、療養開始後1年6箇月を経過している日において治っていない長期療養者から、その1年6箇月を経過した日以後1箇月以内に「傷病の状態等に関する届書」を提出させ、傷病(補償)年金を支給するか、引き続き休業(補償)給付を支給するかを決定する。(則18条の2,2項)

傷病の状態等に関する届書(PDF)の無料ダウンロード

②引き続き休業(補償)給付を支給されることとなった労働者からは、毎年1月1日から同月末日までのいずれかの日の分を含む休業(補償)給付の請求書を提出する際に、その請求書に添えて「傷病の状態に関する報告書」を提出させ傷病(補償)年金の支給決定の要否を決定する。(則19条の2)ただし、当該報告書の提出を待つまでもなく、当該労働者が傷病等級に該当するに至っていることが推定できるに至った場合や当該労働者が傷病等級に該当するに至ったとして申し出た場合には、所轄労働基準監督署長は「傷病の状態等に関する届書」を提出させ支給決定の要否を決定する。(則18条の2、1項)

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(4)障害の程度の変更(法18条の2)

傷病(補償)年金の受給権者の障害の程度に変化があり、それに伴い該当する傷病等級に変化があった場合には、その後は、その変化のあった後の傷病等級による額の傷病(補償)年金が支給される。障害の程度が軽くなって傷病等級に該当しなくなった場合には、以後は、傷病(補償)年金は支給されなくなるが、当該傷病が治ゆせず休業している場合には休業(補償)給付が支給される。(さらに再び傷病(補償)年金の支給要件に該当すれば再び傷病(補償)年金の支給が始まる)

  • 傷病(補償)年金の変更も労働者の請求により行われるのではなく、職権により行われる。
  • 具体的な手続は次の通りである。
    ①年金たる保険給付の受給権者は、毎年6月30日(1月~6月生まれの者の場合)又は10月31日(7月~12月生まれの場合)までに定期報告書を提出しなければならないことになっているので、当該報告書により障害の程度が認定される。(則21条)
    ②傷病(補償)年金の受給権者は傷病が治ゆした場合又は障害の程度に変更があった場合は届出なければならないことになっているので、当該届出によっても障害の程度が認定される。(則21条の2、1項7号)

(5)支給期間

傷病(補償)年金はその支給要件が満たされる期間支給される。

  • 障害の程度が傷病等級に該当するに至った場合は、その月まで休業(補償)給付が支給され、翌月から傷病(補償)年金が支給される。
  • 障害の程度が変更した場合は、その翌月から新たな傷病等級に応じた年金額の傷病(補償)年金が支給される。
  • 傷病は治ゆしないが、障害の程度が傷病等級に該当しなくなった場合は、その月まで傷病(補償)年金が支給され、翌月から休業(補償)給付が支給される。
  • 傷病が治ゆした場合は、その月まで傷病(補償)年金が支給される。なおその後については障害が残っていれば障害(補償)給付の対象となる。
  • 傷病(補償)年金は監獄や少年院等に拘禁又は収容された場合でも支給される。

(6)労働基準法による解雇制限との関係(法19条)

傷病補償年金を受ける者が次の①又は②に該当する場合、使用者はその日に労働基準法81条の規定による打切補償を支払ったものとみなされ、同法19条の規定による解雇制限が解除される。

① 療養開始後3年を経過しした日おいて傷病補償年金を受けている場合

② 療養開始後3年を経過した日後において傷病補償年金を受けることとなった場合

  • 傷病年金(通勤災害)の場合は打切補償との関係の規定の適用はない。(通勤災害の場合には打切補償を払う必要がないため)

労働基準法の解雇制限とは?>
労働基準法の打切補償とは?>

(7)他の保険給付との関係

傷病(補償)年金は休業(補償)給付に切り替えられて支給されるため、両者が併給されることはない。また傷病(補償)年金の支給要件を満たすこととなった場合には、当該年金の支給決定の有無にかかわらず、当該支給事由が生じた月の翌月以後、休業(補償)給付は行わないものとされている。なお傷病(補償)年金を受給中の労働者は療養を必要とするものであるため、療養(補償)給付は併給される。(通達)

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