労働保険の保険関係の一括


労働保険の保険関係の一括(徴収第9条)

労働保険の保険関係は、個々の事業を単位として適用され事務処理がなされるのが原則であるが、事業主及び政府の事務処理の便宜と簡素化を図るため、一定の条件が整った場合に、数個の事業が一括されて1つの保険関係として取り扱われる。これを保険関係の一括といい、次の3種類に分けられる。

(1) 有期事業の一括(徴収法第7条)

同一の事業主が有期事業である建設の事業や立木の伐採の事業を複数行う場合、本来は現場ごとに保険関係が適用されることになるが、小規模な工事等の場合には、それぞれの事業場ごとに単独で保険関係を適用すると事務処理が繁雑になってしまう。そこで一定の要件に該当すれば法律上当然に、それぞれの有期事業が一括されて1つの事業(一括有期事業)として取り扱われる。なお、有期事業として取り扱う事業は二元適用事業であり、労災保険に係る保険関係についてのみ有期事業として取り扱うため、有期事業の一括により一括されるのは、労災保険に係る保険関係についてのみである。

①要件(法7条、則6条)

2以上の有期事業の一括が行われるためには次の全ての要件を満たしていなければならない。

a 事業主が同一人であること

b それぞれの事業が有期事業であること

c それぞれの事業が、労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち、建設の事業又は立木の伐採の事業であること。

d それぞれの事業の規模が、概算保険料を算定することとした場合における概算保険料の額に相当する額が160万円未満であり、かつ、建設の事業にあっては、請負金額が1億9000万円未満、立木の伐採の事業にあっては、素材の見込み生産量が1000立方メートル未満であること

e それぞれの事業が、他のいずれかの事業の全部又は一部と同時に行われること

f それぞれの事業が、労災保険率表に掲げる事業の種類を同じくすること

g それぞれの事業に係る労働保険料の納付の事務が一の事務所で取り扱われること

h 機械装置の組立て又は据付けの事業以外の事業にあっては、それぞれの事業が、一括事務所の所在地を管轄する都道府県労働局の管轄区域又はこれと隣接する都道府県労働局の管轄区域(厚生労働大臣労働大臣が指定する都道府県労働局の管轄区域を含む)内で行われること

  • 事業主とは、個人企業の場合は個人、法人企業の場合は法人であるので、個人企業の代表者と法人企業の代表取締役が同一人であっても事業主は別人であり、一括の対象とならない。
  • 「他のいずれかの事業の全部または一部と同時に行われること」とは、2以上の事業が時期的に多少なりとも重複
  • 一括される全ての事業は有期事業でなければならない。
  • 機械装置の組立て又はすえ付けの事業については地理的な制限はない。
  • 一括されたあとにdの要件に該当しなくなってもあくまで当初の一括扱いによることとされ、新たに独立の有期事業としては取り扱わない。(通達)

②一括の効果

2以上の有期事業の一括が行われると、全体で1つの事業(一括有期事業)として取り扱われるため、徴収法上次のような効果がある。

a 一括事務所において、労働保険料の納付の事務等が一括して行われる。

b 継続事業と同様に、労度保険料の年度更新の手続がとられる。

c 継続事業のメリット制が適用される。(ただし、保険料率の増減の範囲は100分の35)

  • 一括有期事業は、原則として継続事業とみなされる。(通達)
  • 一括されるのは労災保険に係る保険関係であって、雇用保険に係る保険関係が一括されるわけではない。
  • 雇用保険の被保険者に関する事務、労災保険及び雇用保険の給付に関する事務並びに印紙保険料の納付に関する事務はそれぞれの事業ごとに行わなければならない。

③一括有期事業に係る事務手続等

a 一括有期事業開始届(則6条3項)

一括有期事業の事業主は、それぞれの事業を開始したときは、その開始の日の属する月の翌月10日までに、一括有期事業開始届を所轄(一括事務所の所在地を管轄する)労働基準監督署長に提出しなければならない。

  • ①の要件を全て満たしていれば、法律上当然かつ強行的に一括有期事業として取り扱われるため、一括の承認等の特別な手続は不要である。
  • 一括有期事業の事業主が、一括有期事業を開始したときは、その開始の日から10日以内に保険関係成立届を提出しなければならない。(法4条の2、1項)

b 一括有期事業報告書(則34条)

一括有期事業の事業主は、次の保険年度の初日又は保険関係が消滅した日から起算して50日以内(当日起算)に一括有期事業報告書を、一括事務所の所在地を管轄する都道府県労働局労働保険特別会計歳入徴収官(都道府県労働局歳入徴収官)に提出しなければならない。

(2) 請負事業の一括等(法8条)

労災保険に係る保険関係が成立している建設の事業のうち、数次の請負によって行われる事業については、法律上当然に、下請負人の事業と元請負人の事業が一括されて1つの事業として取り扱われる。(請負事業の一括)これに対して、下請負人の行う事業であっても、規模の大きいものについては、むしろ実質的な事業主である下請負人を、保険関係においても事業主として取り扱った方が、保険技術的に合理的であり、また下請負人の労働災害防止意欲を促す効果も大きい。そこで一定規模以上のした請負事業については、元請負人、下請負人が共同して申請をし、認可を受けることを要件に元請負事業から分離独立した1つの事業として、別個の保険関係を成立させることにしている。これをした請負事業の分離という。

①請負事業の一括(法8条1項、則7条)

a 要件

次の要件を満たす場合には、法律上当然に請負事業の一括が行われる。

イ 労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち建設の事業であること(立木の伐採の事業は該当しない)

ロ 数次の請負によって行われること(事業規模は問わない)

  • 請負事業の一括が行われる場合であって、当該事業の下請負人として実施している事業と当該下請負人が他に実施している有期事業があるとしても、それらの事業については有期事業の一括は行われることはない。

b 一括の効果

その事業は一の事業とみなされ、元請負人のみが当該事業の事業主とされる。従って、当該元請負人は下請の労働者も含めて当該事業に使用される労働者につき保険料の納付等、保険関係についての義務を負わなければならない。

  • 一括されるのは労災保険に係る保険関係であって、雇用保険に係る保険関係が一括されるわけではない。
  • 雇用保険の被保険者に関する事務、労災保険及び雇用保険の給付に関する事務並びに印紙保険料の納付に関する事務はそれぞれの事業ごとに行わなければならない。

②下請負事業の分離(法8条2項)

a 要件(則8条、9条)

次の要件を満たさなければならない。

イ 請負事業の一括の対象となる事業であること(具体的には労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち、数次の請負によって行われる建設の事業であること)

ロ 下請負人の請負に係る事業が有期事業の一括の対象となる規模の事業ではないこと(具体的にはその事業の規模が概算保険料の額に相当する額が160万円以上、又は請負金額が1億9000万円以上であること)

ハ 下請負事業の分離につき、元請負人及び下請負人が共同で申請し、厚生労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)を受けること

  • 認可申請所はやむを得ない理由がある場合を除き、保険関係成立の日の翌日から起算して10日以内に所轄都道府県労働局長に提出しなければならない。なお、請負方式の特殊事情から事業開始前に下請負契約が成立せず期限内に申請書を提出することができないときは、期限後であっても申請することができる。(通達)

b 分離の効果

下請負人の請負に係る事業については、その事業が一の事業とみなされ、下請負人のみを当該事業の事業主として徴収法の規定が適用される。

  • 分離されるのは労災保険に係る保険関係であって、雇用保険に係る保険関係ではない。また、法律上当然に分離されるわけではない。(共同申請をし、厚生労働大臣の認可を受けなければならない)

 

(3) 継続事業の一括(法9条)

同一企業で各地に本店のほか支店等がある場合に、事業主が一定の要件に該当する事業について申請をして厚生労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)があったときは、同一企業の本店等がまとめて1つの事業として取り扱われる。

① 要件

2以上の継続事業の一括が行われるためには次の全てを満たしていなければならない。

a 事業主が同一人であること

b それぞれの事業が次のいずれかのみに該当するものであること(保険関係の同一性)

             
イ 二元適用事業であって、労災保険に係る保険関係が成立しているもの

ロ 二元適用事業であって、雇用保険に係る保険関係が成立しているもの

ハ 一元適用事業であって、労災保険及び雇用保険に係る保険関係が成立しているもの

c それぞれの事業が、労災保険率表における事業の種類を同じくしていること

d 継続事業の一括の申請を行い、厚生労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)を受けること

  • 雇用保険に係る保険関係が成立している二元適用事業の場合であっても、労災保険率表による事業の種類が同じでなければならない。
  • 継続事業の一括においては、暫定任意適用事業も対象となる。
  • 継続事業の一括においては、事業の規模は問われない。
  • 継続事業の一括においては地理的な制限はなく、全国にある事業を一括できる。
  • 継続事業の一括の場合のみ雇用保険に係る保険関係も一括の対象となる。(雇用保険の被保険者に関する届出の事務等は個々の事業所ごとに行う)
  • 有期事業の一括と請負事業の一括が法律上当然に行われるのに対し、継続事業の一括と下請負事業の分離の場合は法律上当然に行われるのではなく厚生労働大臣の認可を受けなければならない。
  • その事業に他の各事業が一括される事業を指定事業といい、認可を受けようとする事業主は、継続事業一括申請書を指定事業として指定を受けることを希望する事業に係る所轄都道府県労働局長に提出する。(法45条、則10条2項、73条の2、2号)
  • 指定事業以外の事業の名称又は当該事業の行われる場所に変更があったときは遅滞なく、継続被一括事業名称・所在地変更届を指定事業に係る所轄都道府県労働局長に提出しなければならない。(則10条4項)
  • 一括取扱いは、必ずしも全ての事業を一括する趣旨ではない。(成立している保険関係の全部又は一部を一の保険関係とするものである)従って、支店、支社等において、その下部機構の事務を集中管理している場合には、当該支店、支社等を指定事業としてその下部機構を一括することができる。(通達)
  • 指定事業の指定は、申請を受けた都道府県労働局長が認可をする際に行う。(則10条3条)

②一括の効果

2以上の継続事業の一括が行われると、それぞれの事業の保険関係は厚生労働大臣が指定する一の事業(指定事業)に係る保険関係に一本化され、1つの保険関係となるため、それぞれの事業に使用される労働者は、指定事業に使用される労働者とみなされる。

  • 継続事業の一括が行われても、雇用保険の被保険者に関する事務並びに労災保険及び雇用保険の給付に関する事務はそれぞれの事業ごとに行わなければならない。(実務上は適用事業非該当承認届を提出することによって行うことができる)
  • 指定事業以外の対象事業(被一括事業)についての保険関係が消滅するため保険関係が消滅した日から起算して50日以内に保険関係消滅に伴う保険料の確定清算手続が必要となる。
  • 指定事業については、事業規模が拡大されたこととなるため、通常は増加概算保険料の納付の手続を要することとなる。
  • メリット制の適用は、指定事業について行われることとなる。

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