労働保険の一般保険料(徴収第11条)
(1) 一般保険料の計算方法(法11条)
一般保険料は、事業主が労働者に支払う賃金を基礎として算定する通常の保険料である。一般保険料の額は、賃金総額に一般保険料に係る保険料率(一般保険料率)を乗じて得た額とされているが、保険関係の成立の仕方によって一般保険料率が異なるため、具体的には次のように算出することとなる。
①労災保険及び雇用保険に係る保険関係が成立している事業
賃金総額×(労災保険率+雇用保険率)
②労災保険に係る保険関係のみが成立している事業
賃金総額×労災保険率
③雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業
賃金総額×雇用保険率
◎賃金総額とは?(法11条2項)
(原則)事業主がその事業に使用する全ての労働者に支払う賃金の総額をいう。
- 一般保険料の額の算定の基礎となる賃金総額には、雇用保険の日雇労働被保険者の賃金総額も含まれる。
- 賃金総額には賞与も含まれる。
賃金総額の算定の対象となるのは次の期間である。
①継続事業の場合
→保険年度(保険年度の中途に保険関係が成立した場合は、保険関係成立日から保険年度の末日まで・保険年度の中途に保険関係が消滅した場合は、保険年度の初日から保険関係消滅日まで)
②有期事業の場合
→事業の全期間
(特例)労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち①請負による建設の事業②立木の伐採の事業③造林の事業、木炭又は薪を生産する事業その他の林業の事業(立木の伐採を除く)④水産動植物の採捕又は養殖の事業であって、賃金総額を正確に算定することが困難なものについては、特例による賃金総額の算定が行われる。具体的には次のようになる。
①請負による建設の事業の賃金総額(則13条1項、則別表2)
請負金額×労務費率
- 請負金額は消費税込みの金額である。(通達)
- 賃金総額の特例はあくまで賃金総額を算定することが困難な場合に限られるので、例えば、単に請負による建設の事業であるということだけでは当該特例は適用されない。
- 事業主が、注文者その他の者からその事業に使用する物の支給を受け又は機械器具等の貸与を受けた場合には、原則として支給された者の価額に相当する額又は機械器具等の損料に相当する額を請負代金の額に加算する。(則13条2項1号)
- ・機械装置の組立て又は据付けの事業主が注文者等から当該組立て又はすえ付ける機械装置の支給を受けた場合には、支給された機械装置の価額に相当する額を請負代金の額から控除する。(通達)
②立木の伐採の事業の賃金総額(則14条)
都道府県労働局長が定める素材1立方メートルを生産するために必要な労務費の額×生産するすべての素材の材積
③立木の伐採の事業以外の林業及び水産業の賃金総額(則15条)
厚生労働大臣が定める平均賃金相当額×それぞれの労働者の使用期間の総日数
◎労災保険率
労災保険率は、一般保険料率のうち労災保険に係る部分の率であり、労災保険法の規程による保険給付及び労働福祉事業に要する費用の予想額に照らし、将来にわたって、労災保険の事業に係る財政の均衡を保つことができるものでなければならないものとされ、労災保険率は、則別表1で定める事業の種類ごとに、過去3年間に発生した業務災害及び通勤災害に係る保険給付の種類ごとの受給者数及び平均受給期間、過去3年間の二次健康診断等給付の受給者数その他の事項に基づき算定した保険給付に要する費用の予想額を基礎とし、労災保険に係る保険関係が成立している全ての事業の過去3年間の業務災害及び通勤災害にかかわる災害率並びに二次健康診断等給付に要した費用の額、労働福祉事業として行う事業の種類及び内容、労災保険事業の事務の執行に要する費用の予想額その他の事業を考慮して厚生労働大臣が定めるものとされている。
◎雇用保険率(平成28年度)
雇用保険率は、一般保険料のうち雇用保険に係る部分の率であり、事業の種類に応じて次表のとおり3種類の率が定められている。なお、雇用保険率には雇用二事業に係る率(二事業率)が含まれている。
|
雇用保険率 |
事業主負担分 (うち二事業率) |
被保険者負担分 |
一般の事業 |
1000分の11 |
1000分の7 (1000分の3) |
1000分の4 |
農林水産業 清酒製造業等 |
1000分の13 |
1000分の8 (1000分の3) |
1000分の5 |
建設の事業 |
1000分の14 |
1000分の9 (1000分の4) |
1000分の5 |
- 農林水産の事業のうち、季節的に休業し、又は事業の規模が縮小することのない事業として厚生労働大臣が指定する次の事業については、雇用保険率を一般の事業と同様にする特例がある。(通達)
a 牛馬の育成、酪農、養鶏又は養豚の事業
b 園芸サービスの事業
c 内水面養殖の事業
(2) 一般保険料額の特例(整備省令17条)
一元適用事業であって、雇用保険法の適用を受けない者又は高年齢労働者のうち短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者以外の者を使用するものについては、当該事業を労災保険に係る保険関係及び雇用保険に係る保険関係ごとに別個の事業とみなして一般保険料の額を算定する。(一元適用事業であっても労災保険と雇用保険の適用労働者の範囲が異なる場合には、労災保険の保険料と雇用保険の保険料を別々に計算し、それらを合算した額を一般保険料の額とする。)
- 二元適用事業の場合に、徴収法では元々労災保険に係る保険関係及び雇用保険に係る保険関係ごとに別個の事業とみなしているので当然労災保険の保険料と雇用保険の保険料は別個に計算することになる。
(3) 高年齢労働者に係る一般保険料の免除(法11条の2、則15条の2、令1条、5条)
保険年度の初日(4月1日)において64歳以上である高年齢労働者であって、雇用保険の短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者以外の者を、免除対象高年齢労働者といい、雇用保険の保険関係が成立している事業の事業主が、その事業に免除対象高年齢労働者を使用する場合には、免除対象労働者に支払う賃金の総額(高年齢者賃金総額)に係る雇用保険料相当額が、事業主負担分及び被保険者負担分ともに一般保険料の額より免除される。
- 短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者は、高年齢労働者に該当する場合でも雇用保険料相当額の免除がされない。