労働保険事務組合(徴収第33~36条)
(1) 労働保険事務組合の意義
労働保険事務組合制度は労働保険事務組合として厚生労働大臣の認可を受けた中小事業主の団体が、事業主の委託を受けて、事業主に代わって労働保険事務を処理することができるとするものであり、中小事業主の事務処理負担を軽減し、保険事務の円滑化を図るとともに、中小事業主および家族従事者等への労働保険の適用の促進を図ろうとするものである。
(2) 認可(法33条2項)
労働保険事務組合としての業務を行おうとする事業主の団体又はその連合団体は、厚生労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)を受けなければならない。つまり、既存の事業主の団体等が、その事業の一環として、労働保険事務を処理するのであって、認可を受けたことにより全く新しい団体等が設立されるわけではない。
①認可の申請(則73条の2、3号、59条1項、75条1項)
労働保険事務組合の認可、認可取消等の厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長に委任されているので、認可申請書の経由・提出先は次のようになる。
a 労災保険に係る保険関係のみが成立している二元適用事業及び一人親方等の団体(労災に限適用事業等)のみに係る労働保険事務を処理する労働保険事務組合は、認可申請書を、所轄労働基準監督署長を経由して、都道府県労働局長に提出する。
b a以外の者に係る労働保険事務を処理する労働保険事務組合は、認可申請書を所轄公共職業安定所長を経由して、都道府県労働局長に提出する。
・認可申請書には、次の書類を添付しなければならない。
イ 定款、規約等団体又は連合団体の目的、組織、運営等を明らかにする書類(団体が法人であるときは、登記簿の謄本を含む)
ロ 労働保険事務の処理の方法を明らかにする書類
ハ 最近の財産目録、貸借対照表及び損益計算書等資産の状況を明らかにする書類
②認可の基準(通達)
労働保険事務組合の認可を受けるためには次の認可基準を満たしていなければならない。
a 団体等が法人である必要はないが、法人でない団体等にあっては、代表者の定めがあることのほか団体等の事業内容、構成員の範囲、団体等の組織、運営方法等が定款等に明確に定められ、団体性が明確であること
b 労働保険事務の委託を予定している事業主が30以上であること
c 定款等において、団体等の構成員等の委託を受けて労働保険事務の処理を行うことができる旨定めていること
d 団体等として本来の事業目的をもって活動し、その運営実績が2年以上であること
e 相当の財産を有し、労働保険料の納付等の責任をおうことができるものであること
f 労働保険事務を確実に行う能力を有する者を配置し、労働保険事務を適切に処理できるような事務処理体制が確立されていること
g 団体等の役員及び事務総括者が社会的信用がある等それに相応しい者であること
h 所定の事項を労働保険事務処理規約に定め、総会等の議決機関の承認を経ること
i 労働保険事務組合の主たる事務所が所在する都道府県に隣接する都道府県に主たる事務所を持つ事業主(労働保険事務組合の主たる事務所が所在する都道府県に主たる事務所を持ち、隣接する都道府県又は厚生労働大臣が指定する都道府県労働局の管轄区域において一括有期事業を行う事業主はこれに該当しない)が全事業主の20%以内であること
・労働保険事務組合は徴収法上の法人ではない。また、将来法人化する見込がなくても差し支えない。さらに、認可を受けた場合に労働保険事務以外の事務を処理することができなくなるようなことはない。(通達)
・事務組合の認可を受けたときは法人でなかった団体がその後法人となった場合であって、引き続いて事務組合としての業務を行嘔吐するときは、認可を受けた事務組合についての業務を廃止する旨の届を提出するとともに、改めて、認可申請をしなければならない。
③認可の取消し(法33条4項)
厚生労働大臣(都道府県労働局長に権限委任)は、労働保険事務組合が次のいずれかに該当したときは、その認可を取り消すことができる。
a 徴収法その他の労働保険関係法令の規定に違反したとき
b 労働保険事務の処理を怠ったとき
c 労働保険事務の処理が著しく不当であるとき
・都道府県労働局長は認可を取り消したときは、事務組合だけでなく、委託事業主にも通知しなければならない。(則63条)
(3) 労働保険事務処理の委託
①委託事業主の範囲(則58条2項)
労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託できる事業主は次のいずれかに該当する事業主であって、その使用する労働者数が常時300人(金融業、保険業、不動産業又は小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下であるものである。
a 労働保険事務組合の団体の構成員又は連合団体を構成する団体の構成員である事業主
b aの構成委員以外の事業主であって、労働保険事務の処理を労働保険事務組合に委託することが必要であると認められるもの
・労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託できる事業主は、労働保険事務組合として認可を受けた団体の構成員である事業主に限られない。
・労働者数は事業場単位ではなく、企業単位としてとらえるが、同一の事業主が場所的に独立した異種事業を行う場合には、それぞれ別個の事業として取り扱うため、個々の事業ごとに労働者数をみることになる。(通達)
・労働保険事務組合に労働保険事務を委託した中小事業主は、概算保険料の額にかかわりなく延納することができる。(則27条、28条)また、労働保険事務組合に労働保険事務を委託した中小事業主等でなければ、労災保険に特別加入することができない。(労災法34条)
②委託できる労働保険事務の範囲(法33条1項、通達)
委託できるもの |
委託できないもの |
a 概算保険料、確定保険料その他労働保険料及びこれに係る徴収金の申告・納付 b 雇用保険の被保険者に関する届出等に関する手続 c 保険関係成立届、労災保険又は雇用保険の任意加入申請書、雇用保険の事業所設置届等の提出に関する手続 d 労災保険の特別加入申請等に関する手続 e 労働保険事務処理委託、委託解除に関する手続 f その他労働保険の適用徴収に係る申請、届出及び報告等に関する手続 |
a 印紙保険料に関する事項の事務手続き及びその代行 b 労災保険の保険給付及び労働福祉事業として行う特別支給金に関する請求書等に係る事務手続き及びその代行 c 雇用保険の保険給付に関する請求書等に係る事務手続及びその代行 d 雇用三事業に係る事務手続及びその代行 |
(4) 労働保険事務組合に対する通知(法34条)
政府は、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託した事業主に対してすべき労働保険関係法令の規定による労働保険料の納入の告知その他の通知及び還付金の還付については、これを労働保険事務組合に対してすることができる。この場合において、労働保険事務組合に対してした労働保険料の納入の告知その他の通知及び還付金の還付は、当該事業主に対してしたものとみなすこととされている。
・例えば、政府は、委託事業主に対して行うべき追徴金の通知を労働保険事務組合に対して行うことができ、その通知は委託事業主に対して行ったものとみなされ、通知の効果が委託事業主に及ぶ。
・政府が、労働保険事務組合に督促をしたときは、委託事業主と労働保険事務組合との委託契約の内容のいかんにかかわらず、その督促の効果は法律上当然に委託事業主に対して及ぶ。
・労働保険関係法令に規定する通知等には次のようなものがある。(通達)
①認定決定、追徴金、延滞金等の通知
②追加徴収、差額徴収、還付、充当等の通知
③督促状による督促
④被保険者資格の確認の通知
(5) 労働保険事務組合の責務等
①徴収金の納付責任(法35条1項)
労働保険事務処理の委託に基づき、事業主が労働保険関係法令の規定による労働保険料その他の徴収金の納付のため、金銭を労働保険事務組合に交付したときは、その金額の限度で、労働保険事務組合は、政府に対して当該徴収金の納付の責任を負う。
・労働保険事務組合は、委託事業主から金銭の交付を受けていない労働保険料その他の徴収金については、納付責任は負わない。
②追徴金又は延滞金の納付責任(法35条2項)
労働保険関係法令の規定により政府が追徴金又は延滞金を徴収する場合において、その徴収について労働保険事務組合の責めに帰すべき理由があるときは、その限度で、労働保険事務組合は、政府に対して当該徴収金の納付の責任を負う。
・従って、例えば、委託事業主が納付すべき労働保険料を交付しないために延滞金を徴収されることとなった場合は、労働保険事務組合は当該延滞金の納付の責めは負わない。
・労働保険事務組合から督促状の通知を受けた事業主が、労働保険事務処理規約等に規定する期限までに、労働保険料を当該事務組合に交付したにもかかわらず、当該事務組合が督促状の指定期限までに当該労働保険料を納付しなかったために延滞金が徴収される場合は、当該事務組合は、その延滞金を納付する責任を負う。
③事業主からの徴収(法35条3項)
政府は、前記①、②により労働保険事務組合が納付すべき徴収金については、当該労働保険事務組合に対して国税滞納処分の例による処分をしてもなお徴収すべき残余がある場合に限り、その残余額を委託事業主から徴収することができる。
・従って、委託事業主は、労働保険料を労働保険事務組合に交付したことにより、保険料納付義務を完全に免れるわけではない。(徴収金の全額を労働保険事務組合に交付している事業主にも本条は適用される)
④不正受給に係る労働保険事務組合の責任(法35条4項)
労災保険の保険給付又は雇用保険の失業等給付を不正受給した者から、その給付に要した費用の全部又は一部を政府が徴収する場合において、労働保険事務組合が虚偽の届出、報告又は証明をしたため、これらの給付が行われたものであるときは、政府は、その労働保険事務組合に対し、これらの給付を受けた者と連帯して、その徴収金の納付をすべきことを命ずることができる。
(6) 帳簿の備付(法36条、則64条)
労働保険事務組合は、次の労働保険事務に関する帳簿を事務所に備えておかなければならない。
①労働保険事務処理委託事業者名簿
②労働保険料等徴収及び納付簿
③雇用保険被保険者関係届出事務等処理簿
・労働保険事務組合若しくは労働保険事務組合であった団体は、徴収法又は厚生労働省令による書類を、その完結の日から3年間(③については4年間)保存しなければならない。(則70条)
(7) 届出等
①管轄の特例(則65条、整備省令13条)
管轄の特例により、労働保険事務組合に委託された労働保険事務については、当該労働保険事務組合の主たる事務所の所在地を管轄する行政官庁が所轄行政官庁となる。ただし、当分の間は、労働保険事務組合が都道府県労働局長又は公共職業安定所長に提出する雇用保険に関する書類は、保険料の申告・納付等に係るものを除いて、委託事業主の事業場の所在地を管轄する行政官庁に提出することができる。
②労働保険事務処理委託届(則60条1項)
労働保険事務組合は、労働保険事務の処理の委託があったときは、遅滞なく、労働保険事務処理委託届を、その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければならない。
③労働保険事務処理委託解除届(則60条2項)
労働保険事務組合は、労働保険事務の処理の委託の解除があったときは、遅滞なく、労働保険事務処理委託解除届を、その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければならない。
・労働保険事務処理委託(解除)届の提出は、労働保険事務組合の主たる事務所の所在地を管轄する公共職業安定所長(労災二元適用事業等に係る労働保険事務処理委託(解除)届にあっては,当該事務所の所在地を管轄する労働基準監督所長)を経由して行うものとされているが(則75条2項)、管轄の特例に係る暫定措置により、労災二元適用事業等以外の事業に係る労働保険事務処理委託(解除)届は、当分の間、委託事業主の事業場の所在地を管轄する公共職業安定所長を経由して行うこともできる。
④定款等の変更の届出(則61条)
労働保険事務組合は、労働保険事務組合認可申請書又は次の添付書類に記載された事項に変更を生じた場合には、その変更があった日の翌日から起算して14日以内に、その旨を記載した届書を、その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければならない。
a 定款、規約等団体又はその連合団体の目的、組織、運営等を明らかにする書類(団体が法人であるときは、登記簿の謄本を含む)
b 労働保険事務の処理の方法を明らかにする書類
・当該変更届の提出は、労働保険事務組合の主たる事務所の所在地を管轄する公共職業安定所長(労災二元適用事業等のみの委託を受けて労働保険事務処理場合にあっては、その主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督所長)を経由して行うものとされている。(則75条2項)
・財産目録、貸借対照表、損益計算書等に変更を生じても変更届を提出する必要はない。
・委託された労働保険事務の処理の内容が変更された場合に委託届や変更届を提出する必要はない。
⑤業務廃止届(法33条3項、則62条)
労働保険事務組合は、労働保険事務の処理の業務を廃止しようとするときは、60日前までに、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。
・業務廃止届は、労働保険事務組合の主たる事務所の所在地を管轄する公共職業安定所長(労災二元適用事業等のみの委託を受けて労働保険事務処理場合にあっては,その主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督所長)を経由して都道府県労働局長に提出するものとされている。(則75条2項)
(8) 報奨金制度
政府は、当分の間、政令で定めるところにより、事業主からの委託に基づき労働保険事務組合が納付すべき労働保険料を督促されることなく完納されたとき、その他その納付の状況が著しく良好であると認められるときは、当該労働保険事務組合に対して、予算の範囲内で、報奨金を交付することができる。(整備法23条1項)
①趣旨
a 中小事業主の事務負担を軽減し、保険事務処理の円滑化を図るという労働保険事務組合制度の目的を達成すること
b 将来にわたって労働保険事務組合に対する助長奨励を行うこと
②報奨金の交付要件(報奨金政令1条)
労働保険事務組合が事業主の委託を受けて納付する労働保険料の納付状況が、次のすべての要件に該当するときは、政府から当該労働保険事務組合に対し報奨金が交付される。
a 7月10日において、前年度の労働保険料(当該労働保険料に係る追徴金及び延滞金を含む。以下同じ)であって、次の事業の事業主の委託に係るものにつき、その確定保険料の額(労働保険料に係る追徴金又は延滞金を納付すべき場合にあっては、確定保険料の額と当該追徴金又は延滞金の額との合算額)の合計額の100分の95以上の額が納付されていること。
イ 常時15人以下の労働者を使用する事業
ロ 常時16人以上の労働者を使用する事業であって、当該前年度の直前の3年度のうちいずれかの年度において常時15人以下の労働者を使用する事業に該当したもの(当該常時15人以下の労働者を使用する事業に該当した年度(その該当した年度が2年度以上ある場合にあっては、その最後の年度)以降当該前年度まで引き続き当該事業の事業主が当該事業についての労働保険料の納付を当該労働保険事務組合に委託しているものに限る)
b 前年度の労働保険料等について、国税滞納処分の例による処分(滞納処分)を受けたことがないこと
c 偽りその他不正の行為により、前年度の労働保険料等の徴収を免れ、又はその還付を受けたことがないこと
・労働保険料の納付状況の基礎となるのは前年度の確定保険料の額であり、認定決定されたものや追徴金又は延滞金も含まれる。
③報奨金の額(報奨金政令2条)
報奨金の額a、bの合計額である。
a 常時15人以下の労働者を使用する事業の事業主の委託を受けて納付した前年度の労働保険料(督促を受けて納付した労働保険料を除く。以下同じ)の額(その額が確定保険料を超えるときは当該確定保険料の額。以下同じ)に100分の2.5を乗じて得た額に厚生労働省令で定める額を加えた額
b 常時16人以上の労働者を使用する事業(前年度の労働保険料等について督促を受けたことがないものに限る)の事業主の委託を受けた場合は、当該16人以上事業が15人以下事業に該当した年度に納付した労働保険料の額に100分の2.5を乗じて得た額に厚生労働省令で定める額を加えた額
④報奨金の交付申請(報奨金省令2条)
報奨金の交付を受けようとする労働保険事務組合は、労働保険事務組合報奨金交付申請書を10月15日までにその主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければならない。
・労災二元適用事業等のみの委託を受けて労働保険事務処理場合にあっては、その主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督所長を経由して都道府県労働局長に提出するものとされている。(報奨金交付申請書の提出が公共職業安定所長を経由して行われることはない)