労働保険の保険関係の成立


労働保険の保険関係の成立(徴収第3条)

(1) 強制適用事業に係る保険関係の成立

①保険関係の成立

労災保険、雇用保険の強制適用事業に係る保険関係が成立するのは、ともに、その事業が開始された日又は強制適用事業に該当するに至った日である。

・保険関係は、法律上当然に成立する。(保険関係成立届が提出されているかどうか、その提出期限がいつかなどは関係がない。

・実験用動物の飼育の事業を昼間学生のアルバイト5人を使用して行う事業等、労災保険の保険関係のみが成立することもある。

②保険関係の成立の届出

保険関係が成立した強制適用事業の事業主は、その成立した日から10日以内(翌日起算)に、保険関係成立届を所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長に提出しなければならない。

・内陸湖において観光船を運航する事業は、船員保険の適用事業ではないし、労働保険暫定任意適用事業でもないので、その使用する労働者が船の乗務員のみである場合であっても当該保険関係成立届を提出することになる。

・冬期に交通が途絶する観光地で土産品販売を行う事業は、観光シーズンを期間として従業員を雇い入れ、冬期に従業員が不在となることを繰り返していても観光シーズンの幕開きごとに当該保険関係成立届を提出する必要はない。

a 届出事項(法4条の2、1項、則4条)

イ 保険関係の成立した日
ロ 事業主の氏名及び名称
ハ 事業の種類
二 事業の行われる場所
ホ 事業の名称
へ 事業の概要
ト 事業主の住所又は所在地
チ 事業に係る労働者数
リ 有期事業にあっては、事業の予定される期間

b 提出先(則1条、整備令18条)

次の事業に該当する場合は保険関係成立届を所轄労働基準監督署長に提出する。

ⅰ 一元適用事業であって労働保険事務組合に事務処理を委託しないもの(雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業を除く)

ⅱ 労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち二元適用事業

次の事業に該当する場合は保険関係成立届を所轄公共職業安定所長に提出する。

ⅰ 一元適用事業であって労働保険事務組合に事務処理を委託するもの

ⅱ 一元適用事業であって労働保険事務組合に事務処理を委託しないもののうち雇用保険に係る保険関係のみが成立する事業

ⅲ 雇用保険に係る保険関係が成立している事業のうち二元適用事業

・一元適用事業の場合は、基本的には労働基準監督署長又は公共職業安定所長のいずれかに提出することになるが、二元適用事業の場合は成立した労災保険又は雇用保険の保険関係についてそれぞれ提出することになる。例えば、建設業の場合は、労災保険に係る保険関係成立届は労働基準監督所長に、雇用保険に係る保険関係成立届は公共職業安定所長にそれぞれ提出することになる。

・労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち、建設の事業に係る事業主は、労災保険関係成立票を見やすい場所に掲げなければならない。(則74条)

               
・労働保険事務組合に事務処理を委託している一元適用事業の事業主は、当該労働保険事務組合を通じて労働保険事務組合の主たる所在地を管轄する公共職業安定所長に提出することとされているが、当分の間、当該事務組合は、委託に係る事業場の所在地を管轄する公共職業安定所長に提出することができ(通達)

c 変更の届出(法4条の2、則5条)

保険関係が成立している事業の事業主は、次の事項に変更があったときは、その変更が生じた日の翌日から起算して10日以内に、名称、所在地等変更届を所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長に提出することによって届け出なければならない。

イ 事業主の氏名又は名称及び住所又は所在地
ロ 事業の名称又は種類
ハ 事業の行われる場所
二 有期事業にあっては、事業の予定される期間

・法人の代表取締役の異動があっても届け出る必要はない。

・事業に係る労働者数に変動があっても届け出る必要はない。

(2) 暫定任意適用事業に係る保険関係の成立

①労災保険暫定任意適用事業に係る保険関係成立届(整備法5条)

a 労災保険暫定任意適用事業の事業主については、その者が労災保険の任意加入の申請をし、厚生労働大臣労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)があった日にその事業につき労災保険に係る保険関係が成立する。

b 労災保険暫定任意適用事業の事業主は、その事業に使用される労働者の過半数が希望するときは、任意加入の申請をしなければならない。

②雇用保険暫定任意適用事業に係る保険関係の成立(法附則2条)

a 雇用保険暫定任意適用事業の事業主については、その者が雇用保険の任意加入の申請をし、厚生労働大臣労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)があった日にその事業につき雇用保険に係る保険関係が成立する。

b 任意加入の申請は、その事業に使用される労働者の2分の1以上の同意を得なければ行うことができない。

c 雇用保険暫定任意適用事業の事業主は、その事業に使用される労働者の2分の1以上が希望するときは、任意加入の申請をしなければならない。

・暫定任意適用事業は、二元適用事業であるため、労災保険及び雇用保険の保険関係の成立・消滅は別個に取り扱うことになる。

・労災保険については、保険料の全額が事業主負担のため、事業主の意思のみで加入申請を行うことができる。(同意を必要としない)また、その事業に使用される労働者の過半数が希望したことにより、事業主が任意加入の申請をし、認可があったときは、任意加入を希望しなかった労働者も含めて当該事業に労災保険が適用される。

・雇用保険については、任意加入により労働者も保険料を負担することとなるため申請に当たっては、労働者(雇用保険を適用した場合に被保険者とならない労働者を除く)の2分の1以上の同意を得なければならない。なお、任意加入の認可があったときには、任意加入に同意しなかった労働者も含めて当該事業に使用される労働者の全部に雇用保険が適用される。(行手20154)

・暫定任意適用事業が任意加入する場合には、保険関係成立届を提出する必要はない。ただし、名称、所在地等変更届の提出の対象となる事項に変更があった場合は名称、所在地等変更届の提出が必要となる。

・労災保険の任意加入申請書は、所轄労働基準監督署長を経由して、所轄都道府県労働局長に提出する。(整備省令1条、3条の2、14条)

・雇用保険の任意加入申請書は、所轄公共職業安定所長を経由して、所轄都道府県労働局長に提出する。この場合には労働者の同意を得たことを証明することができる書類を添えなければならない。(則附則2条、則75条)

・労災保険又は雇用保険の強制適用事業に該当する事業が、暫定任意適用事業に該当するに至ったときは、その翌日に、その事業につき、労災保険又は雇用保険の任意加入にかかわる厚生労働大臣労働大臣の認可があったものとみなされ、保険関係は引き続き成立することになる(届出等不要)。このような事業を擬制任意適用事業という。

(暫定任意適用事業に係る保険関係の成立のまとめ)

 

労災保険暫定任意適用事業

雇用保険暫定任意適用事業

要件

原則

事業主の加入申請

① 事業主の加入申請

② 労働者の2分の1以上の同意

申請義務が生じる場合

労働者の過半数が希望するとき

労働者の2分の1以上が希望するとき

提出書類

任意加入申請書

① 任意加入申請書

② 労働者の2分の1以上の同意を証明できる書類

提出先

所轄都道府県労働局長

(所轄労働基準監督署長を経由)

所轄都道府県労働局長

(所轄公共職業安定所長を経由)

保険関係成立日

厚生労働大臣労働大臣の認可(都道府県労働局長に権限委任)があったとき

(3) 代理人の選任・解任(則71条)

事業主はあらかじめ代理人を選任した場合には、徴収法施行規則によって事業主が行わなければならない事項を、その代理人に行わせることができる。

・事業主は代理人を選任し、又は解任したときは、代理人選任・解任届により、その旨を所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長に届け出なければならない。代理人選任・解任届に記載された事項であって代理人の選任に係るものに変更が生じ時も同様である。(何日以内とは規定されていいないが、少なくとも代理人が事務を行う前に提出することになる)

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