遺族(補償)給付等(労災保険法第16条)
労働者が業務災害または通勤災害によって死亡した場合、その者の一定の遺族に対し、遺族(補償)給付が行われる。
原因が業務上の場合は「遺族補償給付」と、通勤上の場合は「遺族給付」という名称となる。
遺族(補償)給付には、遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金があるが、遺族(補償)年金を受けることのできる遺族がいない場合等に遺族(補償)一時金を支給することとされており、遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金のいずれかの受給を選択できるわけはない。
遺族(補償)年金
(1)支給要件
労働者が業務災害または通勤災害によって死亡した場合、その者の一定の遺族に対し、その請求に基づいて支給される。
(2)受給資格者
遺族(補償)年金を受け取ることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとされる。ただし、妻(婚姻の届出配していないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあったものを含む)以外のものにあっては、労働者の死亡の当時、次に掲げる年齢要件又は障害要件が必要となる。
① 夫(婚姻の届出配していないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあったものを含む)、父母又は祖父母については、60歳以上(※)であること
② 子又は孫については18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること
③ 兄弟姉妹については18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること又は60歳以上※であること
④ ①~③に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、厚生労働省令で定める障害の状態にあること
※受給資格者のうち、夫、父母、祖父母又は兄弟姉妹の年齢要件については、本則上では60歳以上であることとされているが、遺族補償年金を受けることができる遺族の範囲が改定されるまでの間、55歳以上60歳未満の夫、父母、祖父母及び兄弟姉妹も受給資格者とされる。(ただし、60歳に達するまでの間は支給停止となる。(s40法附則43条)
- 「一定の障害状態」とは、障害等級第5級以上に該当する障害がある状態、又は負傷若しくは疾病が治らないで、身体の機能若しくは精神に労働が高度の制限を受けるか若しくは労働に高度の制限を加えることを必要とする程度以上の障害がある状態をいう。(則15条)
- 「生計を維持していた」とは、専ら、又は主として労働者の収入によって生計を維持していることを要せず、相互の収入の全部又は一部を共同計算している状態があれば足りる。例えば、共稼ぎの夫婦も配偶者の他方の収入の一部によって生計を維持していたことになる。又、労働者の志望の当時、私傷病等により生計維持関係が失われていてもそれが一時的な事情によるものであることが明らかであるときは、「生計維持関係」があったものと認められる。(通達)
- 労働者の死亡の当時胎児であった子が出生したときは、将来に向かって、その子は労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子とみなされる。(遡ってみなされるのではない)(法16条の2,2項)
(3)受給権者
遺族(補償)年金は受給資格者全員が受給できるものではなく、そのうち最先順位者のみが受給権者となる。この受給権者となる順位は、次表のとおりである。
順位 | 遺族 | 要件(労働者の死亡の当時) | ||
---|---|---|---|---|
1 | 配偶者 | 妻 | 労働者の収入によって生計を維持していたこと | 妻 年齢要件、障害要件はない |
夫 | 夫 60歳以上であるか、又は一定の障害状態にあること | |||
2 | 子 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、又は一定の障害状態にあること | ||
3 | 父母 | 60歳以上であるか、又は一定の障害状態にあること | ||
4 | 孫 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、又は一定の障害状態にあること | ||
5 | 祖父母 | 60歳以上であるか、又は一定の障害状態にあること | ||
6 | 兄弟姉妹 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること、60歳以上であること又は一定の障害状態にあること | ||
7 | 夫 | 55歳以上60歳未満で障害の状態にない者であること | ||
8 | 父母 | |||
9 | 祖父母 | |||
10 | 兄弟姉妹 |
- 受給権者が失権した場合において、同順位者がなくても後順位者があるときは、その者が受給権者となる(これを「転給」という。これは労災保険独特のものである)
転給となる場合は、遺族(補償)年金転給等請求書(様式第13号)を所轄の労働基準監督署長に提出する。
遺族(補償)年金転給等請求書(様式第13号)の無料ダウンロード - 前記7から10に該当する者が最先順位者として受給権者となった場合は、その者が60歳に達する月までの間は、遺族補償年金の支給が停止される。(これを「若年支給停止」という。)
- 若年支給停止者は、遺族補償年金は支給停止されるが、遺族補償前払一時金を請求することができる。
- 遺族補償年金の若年支給停止期間中は、遺族特別支給金の支給は停止されないが、遺族特別年金の支給は停止される。
- 若年支給停止者が60歳に達したからといって順位が繰り上がることはない。
- 3~10の者が受給権者となっていても、労働者の死亡の当時胎児であった子が生まれたときは、受給権者でなくなり、胎児であった子が受給権者となる。ただし、失格するわけではないので出生した胎児の受給権が消滅した場合には転給によって再び受給権者となることがあり得る。
- 遺族補償年金の受給権者には、事実上の婚姻と同様の関係にある者も含まれるが、民法の配偶者もいる重婚的内縁関係の場合には、当該民法上の配偶者との関係がその実態を失っていない限り、当該民法上の配偶者が優先され、内縁関係にあった者が受給権者となることはない。(通達)
- 最先順位者が複数いる場合にはその全員が受給権者となるが、これらの者は、世帯を異にする等やむを得ない理由がある場合を除き、そのうち1人を請求及び受領についての代表者に選任しなければならない。(則15条の5、1項)
(4)支給額
遺族(補償)年金の額は、遺族の数によって決定される。遺族補償年金の算定の基礎となる遺族は受給権者及びその者と生計を同じくする受給資格者である。具体的には次表のようになる。
受給権者等の人数 | 年金額 |
---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分。ただし、55歳以上の妻又は厚生労働省令で定める障害の状態にある妻にあっては、給付基礎日額の175日分 |
2人 | 給付基礎日額の201日分 |
3人 | 給付基礎日額の223日分 |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 |
- 受給権者が複数いる場合には、上記の額をその人数(受給権者の人数)で除して得た額が1人当たりの受給額となる。(受給資格者の人数で除すのではない)
- 若年支給停止の対象者は、受給資格者であっても、この場合の遺族(補償)年金の算定の基礎となる遺族には含まれない。(s40法附則43条1項)
- 遺族(補償)年金を受けている者が老齢厚生年金を受けるようになっても遺族(補償)年金が減額されるようなことはない。
(5)年金額の改定
遺族(補償)年金の額の算定の基礎となる遺族の数に増減が生じた場合には、その増減を生じた月の翌月から年金額が改定される。また、受給権者が妻であり、当該妻と生計を同じくする受給資格者がいない場合において、その妻が55歳になったとき又は一定の障害状態に該当したとき若しくは一定の障害状態に該当しなくなったとき(55歳以上であるときを除く)には、その月の翌月から年金額が改定される。
(6)支給停止
遺族(補償)年金の受給権者の所在が1年以上明らかでない場合には、同順位者がいる場合は同順位者の、同順位者がいない場合は次順位者の申請によって、その所在が明らかでない間、その支給が停止される。この場合、受給権者が所在不明となったときにさかのぼって、当該同順位者又は次順位者が最先順位の受給権者となる。
- 支給停止を受けた者は、いつでも支給停止の解除を申請することができる。なお、この支給停止は所在不明となった月の翌月から支給停止が解除された月までおこなわれる。したがって、支給停止の解除がされた時は、その月の翌月から遺族(補償)年金の支給が再開される。
- 受給権者以外の加算対象者が所在不明となったときは所在不明の間は受給権者と生計を同じくしているとはいえないので、所在不明となった月の翌月からその者に係る加算額分を減額して年金額を改定する。
(7)失権及び失格
受給権者は、次のいずれかに該当する場合に失権する。また受給権者以外の受給資格者が次のいずれかに該当する場合はその資格を喪失する。(失格)
① 死亡したとき。
② 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。
③ 直系血族又は直系姻族以外の者の養子(届出をしていないが、事実上養子縁組関係と同様の事情にある者を含む。)となつたとき。
④ 離縁によつて、死亡した労働者との親族関係が終了したとき。
⑤ 子、孫又は兄弟姉妹については、18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき(労働者の死亡の当時から引き続き厚生労働省令で定める障害の状態にあるときを除く。)。
⑥ 厚生労働省令で定める障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなつたとき(夫、父母又は祖父母については、労働者の死亡の当時60歳以上であつたとき、子又は孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるとき、兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか又は労働者の死亡の当時60歳以上であつたときを除く。)
- 妻以外の遺族の障害については、労働者の死亡の当時から引き続いているものでなければならないので、例えば、胎児が障害児として生まれても、労働者の死亡後16歳で障害者となっても、その者の受給権又は受給資格は18歳の年度末に消滅する。(社会保険との違い)
- 子が有する遺族(補償)年金の受給権が国民年金や厚生年金保険の場合のように20歳に達したことにより消滅するようなことはない。
- 受給権者又は受給資格者が一度失権又は失格すると再度遺族(補償)年金の受給権者又は受給資格者となることはない。例えば、婚姻することによって失権又は失格した者が、離婚したからといって再び当該年金の受給権者又は受給資格者となることはない。ただし、これらの遺族については遺族補償一時金を受給することはあり得る。(受給権者が妻のみで、その妻が再婚し、失権した場合で給付基礎日額の1000日分を受給していなかった場合にはその差額が遺族補償一時金として支給される)
- 遺族(補償)年金は、おじ、おばの養子になると失権又は失格するが祖父母の養子となる場合には失権又は失格はしない。
- 妻が婚姻関係を終了させる意思表示をして、婚姻前の氏に復することになっても、遺族(補償)年金の受給権は失権しない。(前記①~⑥に該当しないため)
(8)遺族(補償)年金の請求
遺族(補償)給付を請求するときは、所轄労働基準監督署長に、遺族補償年金支給請求書(様式第12号)又は遺族年金支給請求書(様式第16号の8)を提出する。
なお、遺族特別支給金及び遺族特別年金の支給申請書は、遺族(補償)年金支給請求書と同一の様式であり、原則として遺族(補償)年金の請求と同時に行うこととなっている。
受給権者が2人以上いる場合、年金を請求するとき又は転給により年金を請求するとき等に、遺族補償年金代表者選任(解任)届(年金様式第7号)を所轄労働基準監督署長へ提出する必要がある。
遺族補償年金代表者選任(解任)届(年金様式第7号)の無料ダウンロード
請求に当たって必要な添付書類
ア.死亡診断書、死体検案書又は検視調書の写しなど、労働者の死亡の事実及び死亡の年月日を証明することができる書類。
イ.戸籍謄本、抄本など、請求人及び他の受給資格者と死亡労働者との身分関係を証明することができる書類。
ウ.請求人及び他の受給資格者が死亡労働者の収入によって生計を維持していたことを証明することができる書類。
エ.請求人及び他の受給資格者のうち一定障害の状態にあることにより受給資格者である方については、診断書など労働者の死亡時から引き続き当該障害の状態にあることを証明することができる書類。
オ.受給資格者のうち、請求人と生計を同じくしている方については、その事実を証明することができる書類。
カ.障害の状態にある妻にあっては、診断書など労働者の死亡の時以後障害の状態にあったこと及びその障害の状態が生じ又はその事情がなくなった時を証明することができる書類。
キ.同一の事由により遺族厚生年金、遺族基礎年金、寡婦年金等が支給される場合には、その支給額を証明することができる書類。
(9)遺族(補償)年金前払一時金
①支給要件
遺族(補償)年金の受給権者で、まだ遺族(補償)年金前払一時金を請求していないこと。
- 遺族(補償)年金前払一時金を請求できるのは、同一の事由に関して1回に限られる。従って、失権した先順位者が前払一時金を受給した場合には、転給者は前払一時金の請求をすることができない。
- 遺族(補償)年金前払一時金についても遺族(補償)年金の受給権者であることが要件となっているので生計維持要件を満たしている必要がある。
②受給権者
原則として遺族(補償)年金の受給権者と同じである。
- 若年支給停止期間中であっても、遺族(補償)年金前払一時金を請求することはできる。
③支給額
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分のうち、受給権者が選択し、請求した額
④請求
(原則)
遺族(補償)年金と同時に行わなければならない。
(例外)
遺族(補償)年金の支給決定の通知日の翌日から起算して1年を経過する日までの間は、当該遺族(補償)年金を請求した後であっても請求することができる。この場合の請求額は、給付基礎日額の1000日分から既に支給を受けた遺族(補償)年金の額を減じた額の範囲内に限られる。
- 請求は所轄労働基準監督署長に支給を受けようとする額を示して行う。
遺族補償年金 遺族年金 前払一時金請求書(年金申請様式第1号)の無料ダウンロード - 遺族(補償)年金前払一時金の請求は、死亡した日の翌日から起算して2年以内、かつ、支給決定通知日の翌日から起算して1年以内に行わなければならない。
- 遺族(補償)年金の請求をした後に遺族(補償)年金前払一時金の請求を行った場合には、1月、3月、5月、7月、9月、11月のうち、その請求が行われた月後の最初の月に支給される。
⑤支給停止
遺族(補償)年金前払一時金が支給される場合には、同一の支給事由による遺族(補償)年金はその後各月に支給されるべき額の合算額が当該遺族(補償)年金前払一時金の額に達するまでの間その支給が停止される。当該支給停止期間の算定方法は、障害補償年金前払一時金が支給された場合に準じる。
- 当該支給停止期間中は、20歳前障害による障害基礎年金、児童扶養手当等は支給されない。
- 遺族(補償)年金前払一時金を受給しても特別支給金(遺族特別支給金及び遺族特別年金)は支給停止されない。
- 前払一時金の支給を受けた遺族(補償)年金の受給権者が失権したため、次順位者が当該年金の受給権者となった場合において、未だ支給停止期間が満了していないときは、さらに、新たな当該年金の受給権者となった者についても支給停止が継続される。(通達)
遺族(補償)一時金
(1)支給要件(法16条の6)
遺族(補償)一時金は、次のいずれかの場合に支給される。
① 労働者の死亡当時、遺族(補償)年金を受けることができる遺族がいないとき
② 遺族(補償)年金を受ける権利を有する者の権利が消滅した場合において、他に当該遺族(補償)年金を受けることができる遺族がなく、かつ、当該労働者の死亡に関し支給された遺族(補償)年金の額の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき
(2)受給資格者及び受給権者(法16条の7)
① 受給資格者
遺族(補償)年金の受給権者以外の者で次に掲げる者
a 配偶者
b 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子、父母、孫及び祖父母
c bに該当しない子、父母、孫及び祖父母
d 兄弟姉妹
② 受給権者
遺族(補償)一時金を受けるべき遺族の順位はa~dの順(b、cの中にあってはそれぞれに掲げる順)とされ、そのうちの最先順位者が受給権者となる。
- 配偶者は、「生計維持関係」のあるなしに係らず、最先順位者であり、兄弟姉妹は、「生計維持関係」のあるなしにかかわらず、最後順位者である。
- 遺族(補償)年金を受けるためには、必ず「生計維持関係」が要求されるが、遺族(補償)一時金を受けるためにはそれは必ずしも要求されない。
- 妻以外の遺族が遺族(補償)年金を受けるためには、必ず「年齢又は障害要件」が要求されるが、遺族(補償)一時金を受けるためには「年齢又は障害要件」は全く要求されない。
- この遺族の身分はあくまでも労働者の死亡の当時の身分によるので、遺族(補償)年金の受給権者又は受給資格者が婚姻、養子縁組、離縁等が理由で失権又は失格した場合であっても他に受給権者がいない場合には遺族(補償)一時金の受給権者となることがある。
- 最先順位者が複数いる場合にはその全員が受給権者となるが、これらの者は原則としてそのうち1人を請求及び受領についての代表者に選任しなければならない。(則16条4項)
(3)支給額(法16条の8、別表2)
① 労働者の死亡の当時遺族(補償)年金を受けることができる遺族がいないとき
→ 給付基礎日額の1000日分
② 遺族(補償)年金を受ける権利を有する者の権利が消滅した場合において、他に当該遺族(補償)年金を受けることができる遺族がなく、かつ、当該労働者の死亡に関し支給された遺族(補償)年金及び遺族(補償)年金前払一時金の額の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき
→ 給付基礎日額の1000日分から当該労働者の死亡に関し支給された遺族(補償)年金及び遺族(補償)年金前払一時金の合計額を控除した額
- 受給権者が複数いる場合には、上記の額をその人数で除した額が1人当たりの受給額となる。(法16条の8、2項)
- 給付基礎日数の1000日分の前払一時金が支給された場合には、遺族(補償)一時金が支給されることはない。