給付基礎日額とは?(労災保険法第8条)
(1)原則的な給付基礎日額(法8条1項)
労働者災害補償保険の保険給付は現物給付と現金給付に大別できるが、そのうちほとんどの現金給付の額の算定の基礎として給付基礎日額が用いられる。給付基礎日額は原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額とされる。
平均賃金=算定事由発生日以前3箇月間に支払われた賃金の総額 ÷ 算定事由発生日以前3箇月間の総日数
詳細は平均賃金を参照
- 給付基礎日額は、賃金の変動によって決定されるスライド制や最低・最高限度額などの労働者災害補償保険独自規定の適用を受けるため平均賃金と常に同額とは限らない。
- 特別加入者の給付基礎日額は、平均賃金相当額とされない。また、最低・最高限度額の適用もない。
- 給付基礎日額は給付支給事由の発生した事業場の使用者から被災労働者に支払われた賃金に基づいて算出されれば足り、別個の使用者から得ていた賃金はこれに算入されない(判例)。
(2)給付基礎日額の特例(法8条2項)
平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められる場合は、政府が算定する額を給付基礎日額とすることとされ、具体的には次の場合、所轄労働基準監督署長が給付基礎日額を算定する。
① 私傷病休業者の特例(則9条1項1号)
平均賃金の算定期間中に業務外の事由による傷病(私傷病)の療養のために休業した期間がある労働者については、次のa又はbのうち高い方の額が給付基礎日額とされる。(bの額が最低保障される)
a 労働基準法12条に基づいて算定した平均賃金に相当する額
b 業務外の事由による傷病の療養のために休業した期間の日数及びその期間中の賃金を、平均賃金の算定期間の総日数及び賃金の総額からそれぞれ控除して算定した平均賃金に相当する額
②じん肺患者の特例(則9条1項2号)
じん肺にかかったことにより保険給付を受けることとなった労働者については次のa、bのうち高い方の額が給付基礎日額とされる。(bの額が最低保障される)
a 労働基準法12条に基づいて算定した平均賃金に相当する額(診断によって疾病の発生が確定した日を算定事由発生日として算定した平均賃金)
b 粉じん作業以外の作業に従事することとなった日を算定事由発生日とみなして算定した平均賃金に相当する額
- 前記①、②のほか、平均賃金相当額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められる場合は、厚生労働省労働基準局長が定める基準に従って算定する額が給付基礎日額とされる。(則9条1項3号)
- 労働基準法の場合には①のような場合であっても平均賃金の最低保障はない。(私傷病ではなく、業務災害による休業でなければならない。)
- 親族の疾病又は負傷等の看護のため休業した期間がある場合は①に準じて、振動障害にかかった者については②に準じてそれぞれ給付基礎日額を算定する。(通達)
③ 自動変更額(最低保障額)の特例(則9条1項4号、通達)
平均賃金に相当する額又は①、②の特例により算定された額(平均賃金相当額)が自動変更対象額に満たない場合は自動変更対象額(3,920円・平成26年8月より)が給付基礎日額とされる。ただし、給付基礎日額についてはスライド制が適用されることがあり、適用を受けた場合にはスライド制適用後の額で判断される。具体的には次のようになる。
a 平均賃金相当額にスライド率を乗じて得た額が自動変更対象額以上である場合
→ 当該平均賃金相当額が給付基礎日額となる。
b 平均賃金相当額にスライド率を乗じて得た額が自動変更対象額に満たない場合
→ 自動変更対象額を当該スライド率で除して得た額が給付基礎日額となる。
(例1)平均賃金相当額が4100円であったとしてもスライド率が110パーセントの場合には、スライド後の額が4510円と、自動変更対象額以上になるので、給付基礎日額は平均賃金相当額の4100円となる。
(例2)平均賃金相当額が3500円でスライド率が105パーセントの場合には、スライド後の額が3,675円と自動変更対象額に満たないので給付基礎日額は3,920×105/100=4,116円(1円未満の端数は切捨て)となる。
- 厚生労働大臣は、年度の平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における労働者1人当たりの毎月決まって支給する給与の額の4月分から翌年3月分までの各月分の合計額を12で除して得た額をいう)が直近の自動変更対象額が変更された年度の前年度の平均給与額を超え又は下るに至った場合、その変動した比率に応じてその翌年度の8月1日以後の自動変更対象額を変更しなければならない。なお、自動変更対象額を変更する場合は、当該変更する年度の7月31日までに告示するものとされている。
(則9条2項、4項) - 自動変更対象額に5円未満の端数があるときはこれを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときはこれを10円に切り上げるものとされている。(則9条3項)
- 給付基礎日額が自動変更対象額を下回ることもある。
- 労働基準法の平均賃金に自動変更対象額のような最低保障はない。
(3)給付基礎日額の端数処理(法8条の5)
給付基礎日額に1円未満の端数が生じたときは、事務処理上の便宜のため、これを1円に切り上げるものとされている。
- 保険給付の支給金額に1円未満の端数が生じた時は、これを切り捨てることとされている。なお、特別支給金の支払い金額の端数処理の場合も同様である。 (国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律2条1項)
- 労働基準法の平均賃金は銭未満切捨てとなっている。