労働者福祉事業


労働者福祉事業(労災保険法第 条)

(1)社会復帰促進事業(法29条1項1号)

被災労働者の円滑な社会復帰を促進するための必要な事業として次のようなものがある。

①労災病院・労災リハビリテーション作業所等の設置、運営

a 労災病院

労働災害による一般診療の他、外科後処置、義肢舗装具の支給、リハビリテーション等の指導を行う施設で独立行政法人労働者健康保健福祉機構が設置・運営を行っている。

b 労災リハビリテーション作業所

重度のせき髄障害者等を対象として、健康管理を行いながら計作業に従事させて自立更生を援護する施設で独立行政法人労働者健康保健福祉機構が設置・運営を行っている。

②外科後処置

療養(補償)給付は、業務上の事由又は通勤による負傷又は疾病が治ゆした後は行われない。従って、治ゆした後義肢装着のための必要から行う断端部の再手術、顔面の醜状を軽減するための整形手術、局部の神経症状を早期に消退させるための理学療養その他の外科後処置のための費用は保険給付の対象とならない。しかし、これらの外科後処置は身体障害者が職業生活、社会生活に復帰するためには必要欠くべからざるものであることを鑑み、これを労働福祉事業として行うこととしている。

  • 外科後処置のために休業していても休業(補償)給付は支給されない。

③義肢その他保装具等の支給

業務上の事由又は通勤により手足を失ったり又は視力を著しく減退した労働者に対してはこれらを無料で支給することにしている。労災保険の労働福祉事業として支給するのは義肢、盲人安全つえ、眼鏡、かつら、車いす、キャッチベッド等22種目である。

④ 温泉保養

原則として障害等級8級以上の障害(補償)給付を受けた者について、休養所又は所定の旅館における温泉保養を認めるもので、一障害につき1回7日以内で、この間に必要な宿泊料、食事料、旅費等が支給される。

  • 医師の指導監督のもとに傷病の療養として行われる温泉療養は療養(補償)給付の対象となる。

(2)被災労働者等援護事業(法29条1項2号)

被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業として次のようなものがある。

①特別支給金の支給

特別支給金の詳細はこちら

②労災就学援護費の支給

a 支給要件

労災就学援護費の支給を受けるには在学している年金受給権者(障害(補償)年金の場合は障害等級3級以上の年金受給権者)又は被災労働者の子であって在学している者と同一生計にある年金受給権者である必要がある。

  • 労災就学援護費は在学している者についてのみ支給されるとは限らない。
  • 労災就学援護費は、年金給付基礎日額が16000円を超える者については支給されない。また、年金給付基礎日額が16000円を超えない者であっても学費の支弁が困難であると認められるものと認められないとき(労働者の死亡等に伴い多額の損害賠償金等を受けるような場合)は支給されない。(H11.10.1基発576号)
  • 労災就学援護費は業務災害による年金の受給権者に限らず、通勤災害による年金の受給権者に対しても支給される。
b 支給額

在学者の区分に応じ、在学者1人につきそれぞれ次表の額が支給される。

在学者の区分 支給額(月額)
小学校等の在学者 12000円
中学校等の在学者 16000円
高等学校等の在学者 18000円
大学等の在学者 36000円
  • 労災就学援護費は、他の育英制度による奨学金と異なり、返還を要しない。また、他の奨学金制度の奨学金を受けても減額されない。(通達)
  • 労災就学援護費は幼稚園及び通信制のものについては対象外となるが、盲学校、養護学校、夜間中学、高等専門学校、大学の夜間部、大学院等は対象となる。
  • 労災就学援護費の支給は月単位で行い、日割計算は行われない。また年金が支給されないときは当該援護費も支給されない。

c 不支給

労災就学援護費に係る在学者が次のいずれかに該当した場合には、その該当月の翌月以降、労災就学援護費の支給は行われない。

ⅰ 婚姻したとき
ⅱ 直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき
ⅲ 離縁によって死亡した労働者との親族関係が終了したとき

③ 労災就学保育援護費の支給

就労のため未就学の児童を保育所、幼稚園に預けており、保育に係る費用を援護する必要があると認められる者に対して、要保育児童1人につき月額12000円が支給される。(支給事由、欠格事由はbの場合とほぼ同様)

④ 休業補償特別援護金の支給

事業場廃止等により労働基準法の規定による待期期間中の休業補償を受けることができない労働者に対して休業補償給付の3日分が支給される。

⑤ 年金担保資金貸付制度の実施

年金受給権を担保にして独立行政法人労働者福祉医療機構が小口資金の貸付を行う。

⑥ その他

労災ホームヘルプサービス、介護機器レンタル

(3) 安全衛生確保事業(法29条1項3号)

労働者の安全及び衛生の確保のために必要な事業として次のようなものがある。

① 労働災害防止対策の実施

講習会等の開催、ポスターやパンフレットの作成配布等

② 補助金の交付

労働災害防止協会が自主的に行う業務災害防止事業に対し補助金が交付される。

③ 健康診断センターや産業保健推進センター等の設置、運営
a 健康診断センター

有害業務従事者に対する特殊健康診断、業務上の疾病に関する認定検査、健康診断に関する臨床的調査研究、健康管理に関する相談、指導等を行う施設

b 産業保健推進センター

労働者の健康管理についての知識及び技能に関し、産業医等に対する研修、情報の提供及び相談等の援助、産業保健に関する広報・啓発・調査研究等を行う施設

(4) 労働条件確保事業(法29条1項4号)

労働者の未払賃金につき、一定範囲内において国が事業主に代わって立替払いを行う未払賃金の立替え事業が行われている。

  • 未払賃金の立替え事業は労使あほ権の適用事業の労働者を対象として行われるので、労災保険の暫定任意適用事業で労災保険に加入手続きを取っていない事業の労働者は対象外となる。

(5)留意点

① 支給制限等

特別支給金には法12条の2の2(支給制限)及び法47条の3(一時差し止め)の規定が準用され(支給金規則20条)、例えば保険給付の支給制限事由に該当した場合は、特別支給金にも保険給付と同様の支給制限が行われる。ただし、支給制限の対象となった場合に労働福祉事業の利用が制限されるわけではない。例えば、故意の犯罪行為又は重過失による事故であったために障害補償年金や障害特別支給金年金の支給制限が行われている場合でも外科後処置等について支給制限が行われるわけではない。

② 独立行政法人労働者健康福祉機構が行う業務

a 労災病院等の療養施設の設置・運営
b 健康診断センター等の健康診断施設の設置・運営
c 労働者の健康に関する業務を行う者に対しての援助を行うための施設の設置・運営
d 産業医の選任義務がない事業場で医師に労働者の健康管理等を行わせる事業者に対する助成金の支給
e 自発的健康診断を受ける労働者に対する助成金の支給
f 未払賃金の立替払い
g 労災リハビリテーション作業施設等のリハビリテーション施設の設置・運営
h 納骨堂の設置・運営

  • 労災就学援護費、労災就労保育援護費、休業補償特別援護金の支給事務は所轄労働基準監督署長が行う。(独立行政法人労働者健康福祉機構が行うのではない)

③ 特別加入者について

特別加入者についても労災保険の適用事業に使用される労働者とみなして労働福祉事業を行うことができる。(ただし、ボーナス特別支給金は支給されない)

④ 労働福祉事業に要する費用等について

労働福祉事業に要する費用及び労働者災害補償保険事業の事務の執行に要する費用に充てるべき額は、厚生労働省令で制限されている。

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