障害(補償)給付等


障害(補償)給付(労災保険法第15条、15条の2)

労働者が業務上または通勤上の傷病が治ゆし、障害が残った場合に障害(補償)給付が行われる。

原因が業務上の場合は「障害補償給付」と、通勤上の場合は「障害給付」という名称となる。

給付内容が同等なので両給付を合わせて「障害(補償)給付」とする。
障害(補償)給付にはその程度が重度の場合の障害(補償)年金と比較的軽度の障害(補償)一時金がある。

(1)支給要件(法14条、法別表1)

障害(補償)年金又は障害(補償)一時金は、それぞれ次の要件を満たしている労働者に対し、その請求に基づいて支給される。

① 障害(補償)年金

業務災害または通勤災害による傷病が治ゆし、障害が残った場合で、障害の程度が障害等級の第1級~第7級に該当すること

  • 障害(補償)給付は治ゆ後の給付であり傷病が治っていない間は支給されない。
  • 障害(補償)年金受給中でも傷病が再発した場合にはその受給権は消滅する。

(2)障害等級の決定方法(則14条1項、4項)

(原則)
障害の状態を障害等級に当てはめて決定される。

(例外)
障害等級表には140種類ほどの類型的な障害を定めているにすぎないため障害等級表に掲げられていない障害については、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げられている身体障害に準じて、その障害等級が決定されることとなる。

(例) 味覚の脱失(障害等級表に定めがない)の場合
→第12級として取り扱われる。

(3)障害(補償)給付の額(則別表1,2)

区分 障害等級 障害補償給付の額
障害補償年金 1級 給付基礎日額の313日分
2級 給付基礎日額の277日分
3級 給付基礎日額の245日分
4級 給付基礎日額の213日分
5級 給付基礎日額の184日分
6級 給付基礎日額の156日分
7級 給付基礎日額の131日分
障害補償一時金 8級 給付基礎日額の503日分
9級 給付基礎日額の391日分
10級 給付基礎日額の302日分
11級 給付基礎日額の223日分
12級 給付基礎日額の156日分
13級 給付基礎日額の101日分
14級 給付基礎日額の 56日分
  • 障害(補償)年金を受給している者が就職して賃金を得た場合であっても、年金額が減額されることはない。

(4)併合及び併合繰上げ(則14条2項、3項)

① 併合

同一の事故によって系列を異にする2以上の障害を残した場合、重い方の障害がその複数の身体障害の障害等級とされる。

  • この併合が適用されるのは、複数の障害のうち少なくとも1つが第14級である場合に限られる。例えば第12級と第14級の場合は第12級とされる。

② 併合繰上げ

(原則)
同一の事故によって系列を異にする第13級以上の身体障害が2以上残った場合、重い方の障害を次のように1級~3級の間で繰上げた障害等級がその複数の身体障害の障害等級とされる。

第13級以上に該当する身体障害が2以上ある場合 1級繰上げ
第8級以上に該当する身体障害が2以上ある場合 2級繰上げ
第5級以上に該当する身体障害が2以上ある場合 3級繰上げ

(例)

  • 第10級+第13級 → 第10級を1級繰上げて第9級となる。
  • 第5級+第8級  → 第5級を2級繰上げて第3級となる。
  • 第4級+第5級  → 第4級を3級繰上げて第1級となる。
  • 第11級+第14級 → 11級(併合)
  • 第9級+第11級+第13級 → 第9級を繰上げて第8級となる。

(例外)
②の規定により繰上げられた結果の障害等級が第8級以下である場合においてそれぞれの身体障害の該当する障害等級に応じた障害(補償)給付の額の合計額が、併合繰上げ後の障害等級に応じた障害(補償)給付の額に満たないときは、その者に支給される障害(補償)給付は、当該合算額による。

(例) 第9級第13級の障害がある場合には、第9級を1級繰上げて第8級とすると第9級(給付基礎日額の391日分)と第13級(給付基礎日額の101日分)の合算額である給付基礎日額の492日分が、第8級の給付額である給付基礎日額の503日分に満たないため、この場合の支給額は給付基礎日額の492日分となる。(この場合しかない)

(5)加重(則14条5項)

既に身体障害のあった労働者が業務上または通勤上の傷病により前の障害と同一の部位について障害の程度をさらに重くした場合(これを加重という)の障害(補償)給付の額は、加重した身体障害の該当する障害等級に応じた給付の額から、既に在していた身体障害の該当する障害等級に応じた給付の額を控除して得た額とされる。ただし、既存の障害等級に応じた障害(補償)給付が一時金に相当する者が、加重によって年金に相当する障害等級に該当するに至った場合の障害(補償)年金の額は、現在の障害等級に応じた年金額から、既存の障害等級に応じた一時金を25で除して得た額を差し引いた額とされる。

既存の障害等級に応じた障害補償給付 現在の障害等級に応じた障害補償給付 支給額
障害補償年金 障害補償年金 その差額が支給される
障害補償一時金 障害補償一時金
障害補償一時金 障害補償年金 現在の障害等級に応じた年金額から、既存の障害等級に応じた一時金相当額を25で除して得た額を差し引いた額が支給される。

(例)

  • 年金から年金(第7級に該当した者が第5級に該当する場合)
    →184日分-131日分=53日分
  • 一時金から一時金(第13級に該当した者が第10級に該当する場合)
    →302日分-101日分=201日分
  • 一時金から年金(第10級に該当した者が第7級に該当する場合)
    →131日分-25/302日=118.92日分
  • 既存の身体障害は、業務上、先天性、後天性を問わず、障害等級の障害等級に該当する程度のものである。
  • 障害の加重の取扱いがなされるとき、その障害の原因がどちらも業務災害である場合には、両方の給付基礎日額の算定日が異なるため給付基礎日額が違ってくる。従って、以前から障害(補償)給付を受給していた場合には、既存の障害等級に応じた年金(又は一時金)と、差額支給相当額〔加重分に応じた年金(又は一時金)〕の二本立ての給付として処理される。
  • 「同一の部位」とは、完全に同一の場所ということではなく、例えば、右目と左目の場合も含まれる。また「加重」とは、業務災害又は通勤災害によって新たに障害が加わった結果、障害等級表上、現存する障害が既存の障害より重くなった場合をいうので、自然的経過又は既存の障害の原因となった疾病の再発により障害の程度を重くした場合は「加重」に該当しない。
  • 同一の部位の障害でなければ、年金又は一時金はそのまま減額されずに支給される。

(6)変更(法15条の2)

障害(補償)年金を受ける労働者については、その障害の程度が自然的経過によって増悪又は軽減(これを変更という)したため、新たな障害等級に該当するに至った場合には、当該障害等級に応ずる障害(補償)年金又は障害(補償)一時金が支給され、その後は従前の障害(補償)年金は支給されない。具体的には次のようになる。

  • その変更が、障害等級第1級~第7級の範囲内であるときは、その変更のあった月の翌月の分から新たに該当するに至った障害等級に応ずる年金額に改定する。
  • その変更が、障害等級第8級以下に及ぶときは、障害(補償)年金の受給権が消滅するので、その月分をもって障害(補償)年金の支給を打ち切り、障害(補償)一時金を支給する。(全額支給される)
  • 障害(補償)一時金の支給を受けた者については、その後の障害の程度が自然的経過によって増悪又は軽減しても変更の取扱いは行われない。

(7)再発及びその後の取扱い

① 同一の負傷又は疾病が再発すればその療養の期間中は、障害(補償)年金の受給権は消滅する。(療養(補償)給付と休業(補償)給付又は傷病(補償)年金が併給される)

② 再治ゆ後に残った障害に係る障害(補償)給付は、従前に受けていたものが障害(補償)年金であれば変更の取扱いに準じ、従前に受けていたものが障害(補償)一時金の場合で再治ゆ後残った障害の程度が以前の障害の程度より悪化したときは加重の取扱いに準じる

  • 障害(補償)一時金を受給したものの傷病が再発し、治ったときに同一の部位の障害の程度が障害等級第7級以上に該当することとなった場合には、支給される障害(補償)年金の額からは既に受給した障害(補償)一時金の額の25分の1の額が差し引かれる。(加重に準じるから)

(8)障害(補償)給付の請求

障害(補償)給付を請求するときは、所轄労働基準監督署長に、障害補償給付支給請求書(様式第10号)又は障害給付支給請求書(様式第16号の7)に、医師又は歯科医師の診断書及び必要に応じてレントゲン写真等の資料を添付のうえ提出する。また、同一の事由によって、障害厚生年金、障害基礎年金等の支給を受けている場合には、その支給額を証明することができる書類も、請求書に添付する。

なお、 障害特別支給金障害特別年金障害特別一時金の支給申請書は障害(補償)給付支給請求書と同一の様式であり、原則として障害(補償)給付の請求と同時に行うこととされている。

障害補償給付支給請求書業務災害用(様式第10号)の無料ダウンロード

障害給付支給請求書通勤災害用(様式第16号の7)の無料ダウンロード

通勤災害に関する事項(様式第16号の7~10(別紙))の無料ダウンロード

(9)障害(補償)年金前払一時金(法附則59条)

障害(補償)年金前払一時金は、傷病の治ゆ時に一時的にまとまった資金を必要とする受給権者に対し、その費用に充てることができるように配慮し、当該受給権者の請求により、一定の額を限度として障害(補償)年金を前払いするものである。

①支給要件

障害(補償)年金の受給権者でまだ障害(補償)前払一時金を請求していないこと

  • 障害(補償)年金前払一時金を請求できるのは同一の事由に関し1回に限りである。(則附則27項)

②支給額

障害(補償)年金に係る障害等級に応じた次の表の額のうち、受給権者が選択した額

障害等級 選択可能な額(数字は給付基礎日額の日数を示す)
1級 200,400,600,800,1000,1200,1340の各日数分
2級 200,400,600,800,1000,1190の各日数分
3級 200,400,600,800,1000,1050の各日数分,
4級 200,400,600,800,920の各日数分
5級 200,400,600,790の各日数分
6級 200,400,600,670の各日数分
7級 200,400,560の各日数分
  • 第三者行為災害について当該第三者から損害賠償を受けた場合は、最高限度額から当該損害賠償相当額を控除した額が前払一時金の限度額となる。(通達)
  • 当該給付基礎日額についても法8条の4の規定が準用され、スライド制の適用がある。

③請求

(原則)
障害(補償)年金の請求と同時に行われなければならない。

(例外)
障害(補償)年金の支給決定の通知のあった日の翌日から起算して1年を経過する日までの間は、当該障害補償年金を請求した後においても請求することができる。

  • 請求は所轄労働基準監督署長に支給を受けようとする額を示して行う。

    障害補償年金・障害年金前払一時金請求書(年金申請様式第10号)の無料ダウンロード

  • 当該請求は、治ゆした日の翌日から起算して2年以内、かつ、支給決定通知日の翌日から起算して1年以内に行わなければならない。
  • 前払一時金の請求が年金の請求と同時でない場合、当該請求額は等級ごとの最高限度額(加重障害の場合においては、加重障害にかかわる前払最高限度額)から既に支給を受けた年金額(当該前払一時金一時金が支給される月の翌月に支払われることとなる年金額を含む)の合算額を減じた額を超えることはできない。(則附則28項)
  • 前払一時金の請求が年金の請求と同時でない場合、当該一時金は1月、3月、5月、7月、9月、11月のうち前払一時金の請求が行われた月後の最初の月に支給される。(則附則29項)

④支給停止

1 障害補償年金の支給停止(則附則30項)

障害補償年金前払一時金の支給に伴い、障害補償年金の支給が停止される期間は、当該傷害補償年金前払一時金が支給された月後最初の障害補償年金の支払期月から1年間を除き、支払うべき各月の障害補償年金の額を年5分の単利で割り引いて計算した額の合算額が障害補償年金前払一時金の額に達するまでの期間とされている。つまり、初めの1年間は障害補償年金の各月分の額を単純に合算するが、2年目からは割り引いて計算した額を合計するため、障害補償年金前払一時金の額に到達するのに多少時間がかかることとなる。

2 社会保険の支給停止(法附則59条6項)

1の支給停止期間は、事実上は年金を受給している期間なので、次の福祉的給付は支給停止となる。

a 国民年金法30条の4の規定による障害基礎年金(20歳前傷病による障害基礎年金)、障害福祉年金から裁定替えされた障害基礎年金

b 児童扶養手当法の児童扶養手当、特別児童扶養手当

  • 障害補償年金前払一時金を受給したために障害補償年金が支給停止になっても、特別支給金(障害特別支給金・障害特別年金)は支給される。

(10)障害(補償)年金差額一時金

①支給要件

障害補償年金の受給権者が死亡した場合において、その者に支給された障害補償年金及びこれに係る障害補償年金前払一時金の合算額が障害等級ごとに定められた一定の額に満たないときに、一定の遺族に対してその請求に基づいて支給される。

②受給資格者及び受給権者

1 受給資格者

次に掲げる遺族である。

a 労働者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
b aに該当しない配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹

2 受給権者

障害補償年金差額一時金を受けるべき遺族の順位は、前記①のa、bの順(a、bの中にあってはそれぞれに掲げる順)とされ、そのうちの最先順位者が受給権者となる。

  • 生計を同じくしている場合が優先されるので、例えば、生計を同じくしている姉と同じくしていない子にあっては、姉が受給権者となる。
  • 障害補償年金差額一時金の受給権者が2人以上あるときは、原則として、そのうち1人を請求及び受領についての代表者に選任しなければならない。(則附則23項、則15条の5)
  • 「生計を同じくする」とは、1個の生計単位の構成員であるということであるから、生計を維持されていることを要せず、また必ずしも同居していることを要しないが、生計を維持されている場合には、生計を同じくするものと推定して差し支えない。(通達)

③支給額

障害補償年金に係る障害等級に応じた次表の額と既に受給した障害補償年金及び障害補償年金前払一時金の合算額の差額が支給される。

障害等級 額(数字は給付基礎日額の日数を示す)
1級 1340日数分
2級 1190日数分
3級 1050日数分
4級 920日数分
5級 790日数分
6級 670日数分
7級 560日数分
  • 受給権者が複数いる場合には、この額をその人数で除して得た額が1人当たりの受給額となる。

④受給資格の欠格

① 労働者を故意に死亡させた者は、障害補償年金差額一時金を受けることができる遺族とされない。

② 労働者の死亡前に、当該労働者の死亡によって傷害補償年金差額一時金を受けることができる先順位又は同順位の遺族となるべき者を故意に死亡させた者は障害補償年金差額一時金を受けることができる遺族とされない。

  • 後順位者を故意に死亡させても欠格しない。

⑤請求

所轄労働基準監督署長障害補償年金差額一時金・障害年金差額一時金支給請求書(様式第37号の2)を提出する。なお、請求書には、次の書類を添付する。

(1)戸籍の謄本又は抄本等の請求人と死亡した労働者との身分関係を証明することができる書類。

(2)請求人が死亡した労働者の収入によって生計を維持していた者である場合には、その事実を証明することのできる書類。

障害補償年金差額一時金・障害年金差額一時金支給請求書(様式第37号の2)の無料ダウンロード

 

労災保険について一覧

PAGETOP