特別支給金(支給金則)
特別支給金は労働福祉事業の一環として被災労働者又はその遺族に対して支払われるものである。
そして以下のように各保険給付の上乗せ給付として支給される仕組みになっている。
保険給付 | 一般の特別支給金 | ボーナス特別支給金 |
---|---|---|
休業(補償)給付 | 休業特別支給金 | |
障害(補償)給付 | 障害特別支給金 | 障害特別年金 障害特別一時金 障害特別年金差額一時金 |
遺族(補償)給付 | 遺族特別支給金 | 遺族特別年金 遺族特別一時金 |
傷病(補償)年金 | 傷病特別支給金 | 傷病特別年金 |
(1)一般の特別支給金
① 休業特別支給金(支給金則3条)
A 受給要件
業務上の事由又は通勤による負傷又は疾病に係る療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から休業(補償)給付の受給権者である労働者に対し、その申請に基づいて支給される。
- 休業(補償)給付が支給停止されている場合には休業特別支給金も支給されない。
B 支給額
休業1日につき休業給付基礎日額の100分の20に相当する額
- 当該給付基礎日額にはスライド制及び年齢階層別の最低限度額・最高限度額が適用される。ただし、特別加入者に対して支給される休業特別支給金に係る給付基礎日額にはスライド制は適用されるが、年齢階層別の最低限度額・最高限度額は適用されない。
- 特別支給金の額の算定の基礎に給付基礎日額を用いるのは休業特別支給金に限られる。
- 一部労働した場合の取扱いは休業(補償)給付と同様である。
② 障害特別支給金(支給金則4条)
A 受給要件
業務上の事由又は通勤による負傷又は疾病が治ったときに、障害(補償)給付の受給権者である労働者に対し、その申請に基づいて支給される。
B 支給額
障害等級に応じ右欄の額が一時金として支給される。
障害等級 | 額 |
---|---|
1級 | 342万円 |
2級 | 320万円 |
3級 | 300万円 |
4級 | 264万円 |
5級 | 225万円 |
6級 | 192万円 |
7級 | 159万円 |
8級 | 65万円 |
9級 | 50万円 |
10級 | 39万円 |
11級 | 29万円 |
12級 | 20万円 |
13級 | 14万円 |
14級 | 8万円 |
- 傷病特別支給金を受給した労働者の場合は、障害特別支給金の額が既に受領した傷病特別支給金の額を超えるときに限り、その差額に相当する額が支給される。
- 併合繰上げ行われた場合に、各々の身体障害に該当する障害等級に応ずる障害特別支給金の額の合算額が、併合繰上げられた障害等級に応ずる障害特別支給金の額に満たないときは当該合算額とする。すなわち、第9級(50万円)と第13級(14万円)の障害を同時に残した場合は、併合繰上げにより第8級(65万円)となるが、支給額は50万円+14万円で64万円となる。
- 加重障害や再発治ゆの場合は差額支給となる。例えば第11級の障害を有していた者が加重により第7級に該当した場合には、159万円-29万円=130万円が支給される
- 障害特別支給金は一時金なので、変更により新たに他の障害等級に該当するに至ったとしてもその障害等級に応ずる障害特別支給金が支給されるわけではない。(s55.12.5基発673号)
③ 遺族特別支給金(支給金則5条)
A 受給要件
業務上の事由又は通勤により労働者が死亡した場合に遺族(補償)給付の受給権者である遺族に対し、その申請に基づいて支給される。
- 遺族特別支給金は、遺族(補償)年金又は遺族(補償)一時金の受給権者に支給されるが、その後再び支給されるわけでなない。すなわち、転給により遺族(補償)年金の受給権者となった者や全員失権により遺族(補償)一時金(いわゆる失権差額一時金)の受給権者となった者には支給されない。
- いわゆる若年支給停止者にも遺族特別支給金は支給される。(遺族特別年金は支給停止になる。)
- 遺族(補償)前払一時金を受給していても遺族特別支給金は支給される。
- 遺族特別支給金は必ずしも生計維持要件を満たしている必要はない。
B 支給額
300万円の一時金が支給される。なお遺族特別支給金を受ける遺族が複数いる場合には300万円をその人数で除して得た額となる。
- 遺族特別支給金は、労働者の死亡の当時遺族(補償)年金を受けることができる者がいる場合には当該年金の第1順位の受給権者に支給され、労働者の死亡の当時当該年金を受けることができる遺族がいない場合には、遺族(補償)一時金の第1順位の受給権者に支給される。
④ 傷病特別支給金(支給金則5条の2)
A 受給要件
業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった傷病(補償)年金の受給権者に対して、その申請に基づいて支給される。
- 傷病特別支給金は職権で支給される傷病(補償)年金とは異なり支給の申請が必要となる。
B 支給額
傷病等級に応じて右欄に掲げる額が一時金として支給される。
傷病等級 | 額 |
---|---|
1級 | 114万円 |
2級 | 107万円 |
3級 | 100万円 |
- 傷病特別支給金の支給申請は、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後1年6箇月を経過した日において傷病特別支給金の支給要件に該当することとなった場合には同日の、同日後支給要件に該当することとなった場合には当該該当することとなった日の翌日から起算して5年以内に行わなければならない。なお実務上は傷病(補償)年金の支給の決定を受けた者は、傷病特別支給金の申請を行ったものとして取り扱われる。(通達)
(2)ボーナス特別支給金(特別給与を算定基礎とする特別支給金)
給付基礎日額にボーナス等の特別給与が含まれていないのを補完し、労働者の稼得能力をより適切に反映していこうとするものである。ボーナス特別支給金の額は算定基礎日額に基づいて計算され、その基礎となるのが算定基礎年額である。
◎ 算定基礎年額
(原則)
負傷又は発病の日以前1年間(雇入れ後1年に満たない者については雇入れ後の期間)に支払われた特別給与(労働基準法12条4項の3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金)の総額をいう。
- 当該特別給与の総額を算定基礎年額とすることが適当でないと認められるときは厚生労働省労働基準局長の定める基準に従って算定される額が算定基礎年額となる。
(例外)
原則の額が次のa又はbを超える場合には、そのうち低い方の額が算定基礎年額となる。
① (年金)給付基礎日額の73日分(365日分×100分の20)
② 150万円
- 算定基礎年額が150万円を超えることはない。
◎ 算定基礎日額
算定基礎年額を365で除して得た額
- 算定基礎年額又は算定基礎日額に1円未満の端数があるときは、1円に切り上げる。
① 障害特別年金(支給金則7条)
A 受給要件
障害特別年金は障害(補償)年金の受給権者に対し、その申請に基づいて支給される。
B 支給額
障害(補償)年金に係る障害等級に応じ、次表に掲げる額が年金として支給される。
障害等級 | 額 |
---|---|
1級 | 算定基礎額の313日分 |
2級 | 算定基礎額の277日分 |
3級 | 算定基礎額の245日分 |
4級 | 算定基礎額の213日分 |
5級 | 算定基礎額の184日分 |
6級 | 算定基礎額の156日分 |
7級 | 算定基礎額の131日分 |
- 給付日数は障害(補償)年金と同様である。
- 加重、変更、再発治ゆの場合の取扱いについても障害(補償)年金と同様である。
- 障害(補償)年金前払一時金が支給されたために障害(補償)年金が支給停止になった場合でも障害特別年金は支給される。
- 障害特別年金に前払一時金制度はない。
- 障害特別年金の支給の申請は、障害(補償)年金の受給権者となった日の翌日から起算して5年以内に、当該障害(補償)年金の請求と同時に行わなければならない。
② 障害特別一時金(支給金則8条)
A 受給要件
障害特別一時金は、障害(補償)一時金の受給権者に対し、その申請に基づいて支給される。
B 支給額
障害(補償)一時金に係る障害等級に応じ、次表に掲げる額が一時金として支給される。
障害等級 | 額 |
---|---|
8級 | 算定基礎日額の503日分 |
9級 | 算定基礎日額の391日分 |
10級 | 算定基礎日額の302日分 |
11級 | 算定基礎日額の223日分 |
12級 | 算定基礎日額の156日分 |
13級 | 算定基礎日額の101日分 |
14級 | 算定基礎日額の 56日分 |
- 給付日数は障害(補償)一時金と同様である。
- 併合繰上げが行われた場合に、各々の身体障害に該当する障害等級に応ずる障害特別一時金の額の合算額が併合繰上げられた障害等級に応ずる障害特別一時金の額に満たないときは当該合算額とする。すなわち、第9級(391日分)と第13級(101日分)の障害を同時に残した場合は、併合繰上げにより第8級(503日分)となるが、支給額は391日分+101日分で492日分となる。
- 障害特別一時金の支給を受けた者の障害の程度が自然的に増悪又は軽減することにより新たに他の障害等級に該当するに至ったとしてもその障害等級に応ずる障害特別一時金や障害特別年金が支給されるわけではない。
- 加重障害や再発治ゆの場合は差額支給となる。
- 障害特別一時金の支給の申請は、障害(補償)一時金の受給権者となった日の翌日から起算して5年以内に、当該障害(補償)一時金の請求と同時に行わなければならない。
③ 障害特別年金差額一時金(支給金則附則6項)
A 受給要件
障害特別年金差額一時金は、障害(補償)年金差額一時金の受給権者に対しその申請に基づいて支給される。
B 支給額
次表に掲げる額から当該労働者の障害に関し支給された障害特別年金の額の合計を差し引いた額が支給される。
障害等級 | 額 |
---|---|
1級 | 算定基礎額の1340日分 |
2級 | 算定基礎額の1190日分 |
3級 | 算定基礎額の1050日分 |
4級 | 算定基礎額の920日分 |
5級 | 算定基礎額の790日分 |
6級 | 算定基礎額の670日分 |
7級 | 算定基礎額の560日分 |
- 給付日数は障害(補償)年金差額一時金と同様である。
- 差額一時金の計算に当たっては、受給権者の死亡した日の属する年度(死亡日の属する月が4月から7月までの場合はその前年度)の7月以前の分として支給された年金については、平均給与額の変動に応じて逆スライド改定が行われる。この結果、スライド改定された年金の額は改定されなかったものとした場合の額に改定されたうえで合算される。
- 障害特別年金差額一時金の支給の申請は、障害(補償)年金差額一時金の受給権者となった日の翌日から起算して5年以内に、当該障害(補償)一時金の請求と同時に行わなければならない。
④ 遺族特別年金(支給金則9条)
A 受給要件
遺族特別年金は遺族(補償)年金の受給権者に対し、その申請に基づいて支給される。
- 遺族特別年金を受給するには生計維持要件が必要となる。
B 支給額
遺族の数に応じ次に掲げる額が支給される。
受給権者等の人数 | 年金額 |
---|---|
1人 | 算定基礎日額の153日分。ただし、55歳以上の妻又は厚生労働省令で定める障害の状態にある妻にあっては、給付基礎日額の175日分 |
2人 | 算定基礎日額の201日分 |
3人 | 算定基礎日額の223日分 |
4人以上 | 算定基礎日額の245日分 |
- 給付日数は遺族(補償)年金と同様である
- 遺族特別年金に前払一時金制度はない。
- 遺族(補償)年金前払一時金が支給されたために遺族(補償)年金が支給停止になった場合でも遺族特別年金は支給される。
- 遺族(補償)年金のいわゆる若年支給停止期間中は、遺族特別年金の支給も停止される。
- 遺族特別年金の支給の申請は、遺族(補償)年金の受給権者となった日の翌日から起算して5年以内に、当該遺族(補償)年金の請求と同時に行わなけらばならない。
⑤ 遺族特別一時金(支給金則10条)
A 受給要件
遺族特別一時金は遺族(補償)一時金の受給権者に対し、その申請に基づいて支給される。
B 支給額
イ 労働者の死亡の当時遺族(補償)年金を受けることができる遺族がいないとき
→ 算定基礎日額の1000日分
ロ 遺族(補償)年金を受ける権利を有する者の権利が消滅した場合において、他に当該遺族(補償)年金を受けることができる遺族がなく、かつ、当該労働者の死亡に関し支給された遺族(補償)年金と遺族(補償)年金前払一時金の額の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき
→ 算定基礎日額の1000日分から当該労働者の死亡に関し支給された遺族特別年金の合計額を控除した額
- 給付日数は、遺族(補償)一時金と同様である。
- 遺族特別一時金の支給の申請は、遺族(補償)一時金の受給権者となった日の翌日から起算して5年以内に、当該遺族(補償)一時金の請求と同時に行わなければならない。
⑥ 傷病特別年金(支給金則11条)
A 受給要件
傷病特別年金は、傷病(補償)年金の受給権者に対し、その申請に基づいて支給される。
B 支給額
当該傷病(補償)年金に係る傷病等級に応じ、次表に掲げる額が支給される。
傷病等級 | 額 |
---|---|
1級 | 算定基礎日額の313日分 |
2級 | 算定基礎日額の277日分 |
3級 | 算定基礎日額の245日分 |
- 給付日数は、傷病(補償)年金と同様である。
- 傷病特別年金は職権ではなく申請により支給決定される。
- 傷病等級の変更については傷病(補償)年金と同様の取り扱いをする。(新たな等級に応ずる傷病特別年金を支給し、従前の傷病特別年金は支給しない)なお、この変更は傷病(補償)年金の変更があった場合には当然に行われるものであり、受給者からの申請は要しない。(通達)
- 暫定措置として傷病(補償)年金の額(社会保険との併給の場合は併給の場合に該当しないものとしたときに得られる額)と傷病特別年金の額の合計額が、年金給付基礎日額の292日分に相当する額を下回るときは、その差額相当額{社会保険との併給の場合にあっては、年金給付基礎日額の47日分に相当する額から傷病特別年金の額(傷病特別年金に係る障害の程度が傷病等級第2級に該当する場合にあっては、その額と年金給付基礎日額の32日分に相当する額に調整率を乗じて得た額との合計額)を減じて得た額}が、差額支給金(傷病差額特別支給金)として支給される。(支給金則s52附則6条)
(3)特別支給金の通則事項
① 申請手続
特別支給金は全て所轄労働基準監督署長に申請することによって支給決定される。そして当該申請は原則として保険給付の請求と同時に行わなければならない。(保険給付と同じ請求書で行う。)ただし、傷病特別支給金、傷病特別年金、及び差額支給金の申請は、傷病(補償)年金が請求によって出なく職権によって支給決定される。なお、支給期限は次のようになる。
特別支給金 | 起算日 | 申請期限 |
---|---|---|
休業特別支給金 | 休業特別支給金の支給の対象となる日の翌日 | 2年以内 |
障害特別支給金 | 傷病が治ゆした日の翌日 | 5年以内 |
遺族特別支給金 | 労働者死亡日の翌日 | |
傷病特別支給金 | 療養開始後1年6箇月経過日又は同日後支給要件に該当することとなった日の翌日 | |
障害特別年金 | 障害(補償)年金の受給権者となった日の翌日 | |
障害特別一時金 | 障害(補償)一時金の受給権者となった日の翌日 | |
障害特別年金差額一時金 | 障害(補償)年金差額一時金の受給権者となった日の翌日 | |
遺族特別年金 | 遺族(補償)年金の受給権者となった日の翌日 | |
遺族特別一時金 | 遺族(補償)一時金の受給権者となった日の翌日 | |
傷病特別年金及び差額支給金 | 傷病(補償)年金の受給権者となった日の翌日 |
② 保険給付と特別支給金の相違点
イ 前払一時金を受給しても支給停止されない。
ロ 不正受給しても費用徴収の対象とはならず、不当利得として民事上の返還手続きが必要となる。
ハ 損害賠償との調整は行われない。
二 社会保険との併給調整は行われない。
ホ 譲渡等の対象となる。(退職後の権利、公課の禁止は運用上保障)
へ ボーナス特別支給金は特別加入者には支給されない。
ト 法35条1項の不服申し立ての対象とならない。(行政不服審査法の対象)
③ 保険給付と特別支給金の共通点
イ 支給制限及び一時差止めの対象となる。(支給金則20条)
ロ 年金たる特別支給金の端数処理、支払い時期等は年金たる保険給付と同様の取扱いである。
ハ 支払いの調整(内払・充当)の対象となる。(支給金則14条、14条の2)
二 未支給の特別支給金を申請することができる。(未支給の保険給付の請求と同時に申請しなけらばならない。)(支給金則15条)
ホ 公課の禁止、退職後の権利が運用上認められている。(法律上認められているわけではない)
へ 定額制のもの(障害特別支給金、傷病特別支給金及び遺族特別支給金)を除きスライド制の適用を受ける。
ト 船舶事故等の場合には死亡の推定の対象となる。(支給金則5条9項)
チ 所在不明の場合には遺族特別年金も支給停止の対象となる。(支給金則9条6項)
リ 監獄に拘置等の場合は休業(補償)給付と同様に休業特別支給金も支給されない。(支給金則3条2項)
ヌ 遺族(補償)年金の若年支給停止期間中は遺族特別年金も支給停止となる。(遺族特別支給金は支給される。)
ル 受給権者が2人以上あるときは、保険給付と同様、原則としてそのうち1人を代表者に選任しなければならない。
ヲ 年金たる特別支給金は同一の事由により受ける年金たる保険給付の払渡しを受けるのと同じ金融機関又は郵便局で払い渡すものとされている。
ワ 支給の事務は、労働基準監督署長が行うのであって、独立行政法人労働者健康福祉機構が行うのではない。