通勤災害とは?(労災保険法第7条第2項)
(1) 通勤の定義(法7条2項)
通勤とは労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとされている。
就業に関しとは?
住居と就業の場所との往復行為が業務に就くため又は業務が終了したために行われるものであることを意味する。
- 被災労働者は、被災当日の所定勤務が終了した後、引き続き自分の机上で労働組合の用務を当日の業務終了後2時間ほど行った後、会社を出て通常の通勤経路を自宅に向かって歩行中、対向車に接触され負傷した。本件は通勤災害である。(通達)
- マイカー通勤をしている被災労働者が昼休み時間を利用して勤務先で食事をとった後、近くの歯科医院へ治療に来ていた妻子を自宅まで送ろうとして勤務先の駐車場から妻子の待っている場所に赴く途中、国鉄の踏切上にて急行電車と衝突し、即死した。本件は通勤災害ではない。(通達)
- 通勤は1日について1回のみしか認められないものではないので、昼休み等就業の時間の間に相当の間隔があって帰宅する場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の勤務に就くために出勤するものと考えられるので、その往復行為は就業との関連を認められる。(通達)
- 所定の就業日に所定の就業開始時刻を目途に住居を出て就業の場所へ向かう場合は、寝過ごしによる遅刻、あるいはラッシュを避けるための早出等、時刻的に若干の前後があっても就業との関連性はある。他方、運動部の練習に参加する等の目的で例えば、午後の遅番の出勤者であるにもかかわらず、朝から住居を出る等、所定の職業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合には、就業との関連性はないと認められる。(通達)
- 業務の終了後、事業施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上、就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間となる場合を除き、就業との関連性を認めても差し支えない。(通達)
住居とは?
労働者が居住して日常生活の用に供している場所で、本人の就業のための拠点となるところをいう。
a 住居と認められる場合
イ 通常は家族のいる場所から通勤するが、別にアパートを借りていて早出、残業の際にはそこから出勤する場合
→ 単身アパートと家族の居住する自宅双方が住居を認められる。
ロ やむ得ない事情(長時間の残業、早出、転勤、交通スト、台風等の自然現象等)によって住居以外の場所(旅館、ホテル等)に宿泊する場合
→ 当該場所が住居と認められる
ハ 単身赴任者等が就業の場所と家族の住む場所(自宅)との間を往復する場合において、当該往復に反復、継続性が認められる(おおむね毎月1回以上往復行為がある)場合
→ (その距離に関係なく)当該自宅を住居として取り扱う
b 住居と認められない場合
友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等
- 被災労働者は、看護婦として勤務し、通常は自宅より通勤していたものであるが、同一市内に住む長女が出産するに際し、いわゆる核家族である長女宅の家事、産褥等の世話をするため、被災当日まで15日間長女宅に泊まり込みそこから通勤していたが、当該長女宅から勤務先に向かう途中に被災した。本件は通勤災害である。(通達)
- 被災労働者は夫の付添看護にあたり、勤務のかたわら母親と1日交替で看護にあたっていた。交替で看護にあたっていた間の通勤経路は自宅から勤務先に出勤し、業務終了後、当該病院へ行き看護にあたり、翌日は当該病院から直接勤務先へ出勤し、業務終了後自宅へ帰るという様態を繰り返していたが当該病院から出勤途中に被災した。本件は通勤災害である。(通達)
- アパートについては、アパートの外戸が住居と通勤経路との境界であるので、アパートの階段は、通勤の経路と認められる。(通達)
- 一戸建ての屋敷構えの住居については、敷地内に入る地点が住居と通勤との境界であるのでたとえ玄関先の石段で転倒したとしても通勤災害とはならない。(通達)
就業の場所とは?
本来の業務を行う場所のほか、物品を届けてその届出先から直接帰宅する場合のその物品の届け先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等がこれに当たる。(s48.11.22基発644号)
- 業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数ヶ所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が業務終了の場所と認められる。
合理的な経路とは?
定期乗車券に表示され、あるいは会社に届け出ているような鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等をいう。
a 合理的な経路として認められるもの
イ 通常通勤している経路が道路工事中である等、当日の交通事情により迂回してとる経路
ロ マイカー通勤者が貸し切りの車庫を経由して通る経路
ハ 他に子供を監護する者がいない共働き労働者等が託児所、親戚等に子供を預けるためにとる経路等
b 合理的な経路として認められないもの
イ 特段の合理的な理由もなく著しく遠回りとなるような経路
ロ 鉄道線路、鉄橋、トンネル等危険なところを自ら歩行して通る経路等
合理的な方法とは?
通常用いられる交通方法は、その労働者が平常用いているかにかかわらず、一般的に合理的な方法とされる。
a 合理的な方法として認められる場合
イ 鉄道、バス等の公共交通機関を利用する場合
ロ 自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合
b 合理的な方法として認められない場合
イ 免許を一度も取得したことがないような者が自動車を運転する場合
ロ 自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合
- 軽い飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証の更新忘れによる無免許運転の場合は、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、給付の支給制限が行われることがあることは当然である。(通達)
業務の性質を有するものとは?
往復と上の災害であってもその往復行為が業務の性質を有するような場合には、通勤災害ではなく業務災害の対象となる。
(2) 逸脱・中断(法7条3項)
労働者が、往復の経路を逸脱し、又は往復を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の往復は通勤とされない。
逸脱とは?
通勤途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路を逸れることをいう。
中断とは?
通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう。通勤の途中で麻雀を行う場合、バー・キャバレー等で飲食する場合、デートのため長時間にわたりベンチで話し込んだりする場合がこれに当る。
例外
a ささいな行為を行うにすぎなければ逸脱又は中断したとはみなされない
b 日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行うための最小限度の逸脱又は中断については、当該逸脱又は中断の間を除いて、通常の通勤経路に復した後は通勤と認められる。
bについては、逸脱、中断中が通勤として認められるわけではない。例えば投票所に立ち寄った後は通勤災害となり得るが、投票所で災害を被った場合は通勤災害の対象外である。
ささいな行為とは?
イ 通勤途中の経路近くにある公衆便所を使用する場合
ロ 帰路途中近くにある公園で短時間休息をする場合
ハ 経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合
ニ 駅構内でジュースを立ち飲みする場合
ホ 経路上の店で渇きをいやすため、ごく短時間、お茶などを飲む場合(ただし、同じお茶を飲む場合でも、喫茶店などに立ち寄って長時間にわたって腰を落ち着けた場合等は、逸脱、中断に該当することになる)
へ 手相見や人相見に立ち寄って、ごく短時間手相や人相を見てもらう場合 等
日常生活上必要な行為とは?
イ 日用品の購入その他これに準ずる行為
ⅰ 独身労働者が帰途で食堂に立ち寄る場合
ⅱ 出退勤の途中において理容院、美容院に立ち寄る場合
ⅲ 帰途で共稼ぎの主婦が惣菜等を購入する場合 等
ロ 職業能力開発促進法に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含む)、学校教育法に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
ハ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
二 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
- 専修学校における教育も「日常生活上必要な行為」として認められるが、茶道、華道等の過程又は自動車教習所若しくはいわゆる予備校の課程は「日常生活上必要な行為」として認められていない。(通達)
- 病院に立ち寄った場合でもそのまま入院になってしまったり、美容院に言った場合でも美容が終わってから長時間雑談等に興じていると「最小限度のもの」とは認められなくなり、その後は通勤災害の対象とならないことがある。
(3) 通勤による疾病の範囲
通勤による疾病の範囲については、法22条1項において「厚生労働省令で定めるものに限る」と規定されており、則18条の4において「法第22条第1項の厚生労働省令で定める疾病は、通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病とする。」と規定されている。(例示されているわけではない。)