改正の概要
平成23年の4月、5月及び6月の3か月間に受けた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額と、平成22年7月から平成23年6月までの1年間に受けた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額の間に2等級以上の差を生じた場合であって、この差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合について、保険者算定の対象とすることとなりました。
これまで4月から6月支給分給与の算定対象期間に残業が多くて標準報酬月額が割高になり、1年間高い保険料を支払う必要がありましたが、改正の趣旨としては通常の方法によって報酬月額の算定を行うことが著しく不当であると認められる場合について、新たに保険者算定の対象とすることとしたとのことです。
上記のような事業所につきましては、労使の社会保険料を軽減することができるようになったというところはありがたいのですが、定時決定時の作業量が大幅に増すこととなります。
手続きについて
今回新たに追加した事由に基づく保険者算定を申し立てるに当たっての要件は以下の通りです。
- 事業主は保険者等に対して、その被保険者が保険者算定の要件に該当すると考えられる理由を記載した申立書を提出すること。
- 申立書には、保険者算定を申し立てることに関する被保険者の同意書を添付させること。
- 申立を行うに当たっては、保険者算定の要件に該当するものであることを保険者等が確認できるよう、事業主は前年7月から当年6月の被保険者の報酬額等を記載した書類を提出すること。
- 申立を行う事業主は、その被保険者の報酬月額算定基礎届の備考欄に、その旨(年間平均)を附記して提出すること。
具体的には2. と3. は1枚の紙に記載することとなるようです。
保険者算定の基準見直しに関する主なQ&A(通達より引用)
「業務の性質上例年発生することが見込まれる」の意味は?
業種や職種の特性上、基本的に毎年4月~6月が繁忙期に当たるため、4月~6月までの期間中の残業手当等が、他の期間と比べて多く支給されることなどを理由として、例年季節的な報酬変動の起こることが想定されることをいう。
例えば単年度のみなど、業務の一時的な繁忙による報酬の増加等は対象外である。
具体的にどのような業種が該当すると考えられるのか。
① 4月~6月が繁忙期になる業種
- 4月~6月の時期に収穫期を迎える農産物の加工の業種
- 夏に売り上げが上昇する商品の製造を4月~6月に増加する業種
- 取り扱う魚種の漁期により加工が4月~6月に上昇する水産加工業等の業種
- ビルメンテナンス等が年度末(3月~5月)に集中する清掃・設備点検の業種
- 田植え時期の準備等で4月~6月残業が増加する農業関係の業種(農業法人等)
- 4月の転勤、入社、入学に合わせて業務が増加する引越し、不動産、学生服販売等の業種
② 4月~6月が繁忙期になる部署
- 業種を問わず、人事異動や決算のため4月時期が繁忙期になり残業代が増加する総務、会計等の部署
③ 4月~6月の報酬平均が年間の報酬平均よりも低くなる業種
- 冬季に限定される杜氏、寒天製作業、測量関係等の業種
- 夏・冬季に繁忙期を迎えるホテル等の業種
等の様々な業種等が考えられる。
4月から6月のうち、6月だけが突出して報酬が多く支給される場合は対象となるか。
繁忙期が1年間に複数回あったとしても、4月~6月までの報酬月額の平均と、前年7月~当年6月までの報酬月額の平均との間に、標準報酬月額等級区分で2等級以上の差があれば対象とする。
同じ事業所の中でも、決算業務など、4月~6月が繁忙期に当たる部署と当たらない部署がある場合は、繁忙期に当たる部署のみが対象となるのか。
報酬変動が起こる部署を単位として対象とする。
前年7月~当年6月までの間の報酬月額の平均を計算する際、計算対象に含める月の基準は。
支払基礎日数が17 日以上の月を対象として報酬月額の平均を計算する。パートやアルバイトの方は、支払基礎日数が15 日以上の月を対象として計算する。なお、低額の休職給を受けた月、ストライキによる賃金カットを受けた月及び一時帰休に伴う休業手当等を受けた月は計算対象から除外する
被保険者資格を取得した月によって、取扱いに違いはあるか。
当年3月までに資格取得した者は対象となるが、当年4月~5月までに資格取得した者は、当年3月までの間に、一年間の報酬月額の平均の計算対象となる月が一月も確保されていないため、対象とならない。
2等級以上の差が生じない場合でも、今回追加された保険者算定の取扱いを適用すべき場合はあるか。
随時改定と同様に、以下の事例に該当する場合は、1等級差でも今回追加された保険者算定の対象とする。
<健康保険>
- 4~6月の報酬月額の平均と前年7月~当年6月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が124.5 万円以上、もう片方の月額が111.5 万円以上117.5 万円未満の場合
- 4~6月の報酬月額の平均と前年7月~当年6月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が5.3 万円未満、もう片方の月額が6.3 万円以上7.3 万円未満の場合
<厚生年金保険>
- 4~6月の報酬月額の平均と前年7月~当年6月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が63.5 万円以上、もう片方の月額が57.5 万円以上60.5 万円未満の場合
- 4~6月の報酬月額の平均と前年7月~当年6月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が9.3 万円未満、もう片方の月額が10.1 万円以上10.7 万円未満の場合
4月に定期昇給を行い、それにより7月に随時改定の要件を満たす従業員がいるが、その従業員についても1年間の報酬月額の平均による保険者算定を行えるのか。
4月から6月までの期間に、定期昇給等により固定的賃金変動が起こり、従前の標準報酬月額等級と比較し2等級以上の差が生じた結果、7月から9月までのいずれかの月を改定月とする随時改定が行われる場合は、随時改定が定時決定に優先することから、1年間の報酬月額の平均による保険者算定を行うことはできない。
要件に該当する場合必ず事業主から保険者算定を行うことについて申立書を提出させることになるのか。
必ずしも申立書を提出させる必要はない。申立てがない場合は通常の報酬月額の算定のルールに基づいて標準報酬月額を決定することになる。
被保険者の同意が得られない場合はどうなるか。
被保険者の同意がなければ通常の報酬月額の算定方法に基づき標準報酬月額を決定する。