高年齢雇用継続給付


高年齢雇用継続給付(雇用保険法第61から63条)

高年齢雇用継続給付には、基本手当(再就職手当など基本手当を支給したとみなされる給付を含む)を受給していない者を対象とする「高年齢雇用継続基本給付金」と基本手当を受給し、再就職した者を対象とする「高年齢再就職給付金」があり、基本的に賃金が低下した被保険者に給付金が支給される制度である。

(1)高年齢雇用継続基本給付金(法61条)

①支給要件

高年齢雇用継続基本給付金は、被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く。)が次の要件に該当するときにその支給対象月について支給される。

①算定基礎期間に相当する期間(被保険者であった期間)が5年以上あること
②被保険者に対して支給対象月に支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額100分の75に相当する額を下ること
③ その支給対象月に支払われた賃金の額が支給限度額(339,560円・平成28年8月以降分)未満であること
④ その支給対象月における高年齢雇用継続基本給付金の額として算定された額が下限額1,832円・平成28年8月以降分を超えていること

◎ 支給対象月とは?

被保険者が60歳に達した日の属する月から65歳に達する日の属する月までの期間内にある月であって、その月の初日から末日まで引き続いて被保険者であり、かつ、育児休業給付金又は介護休業給付金の支給を受けることができる休業をしなかった月をいう。(従って最後の支給対象月においては高年齢継続被保険者にも高年齢雇用継続基本給付金が支給されることもあり得る。また、月の初日から末日まで引き続いて育児休業又は介護休業をした月については支給対象月とされないが、月の一部につき育児・介護休業をした場合にはその月は支給対象月とされる。=高年齢雇用継続給付を受給している被保険者についても、育児休業給付や介護休業給付の支給の対象となる)

◎ みなし賃金日額とは?

被保険者を受給資格者とみなし、当該被保険者が60歳に達した日(その日においてみなし算定基礎期間が5年未満であるときは、5年となるに至った日)を受給資格に係る離職の日とみなして算定した賃金日額をいう。

  • 雇用継続給付に係る支給限度額が引き上げられたことによって雇用継続給付の支給要件が満たされた場合でも、雇用継続給付の支給は行われる。
  • 雇用継続給付の支給期間が65歳に達する日の属する月を超えて延長されるようなことはない。
  • 支給対象月において、次のいずれかに該当する理由により支払いを受けることができなかった賃金がある場合には、その支払いを受けたものとみなして支給対象月における賃金の額を算定する。(減額分を加算してみなし賃金を算定する)従って、これらの理由によって賃金の額が低下しても高年齢雇用継続基本給付金は支給されない。(則101条の3)
    a 非行(懲戒処分など自己の責めに帰すべき理由により賃金の減額が行われた場合をいう)
    b 疾病又は負傷(業務上外を問わない)による欠勤、遅刻、早退
    c 事業所の休業
    d 労働関係調整法7条に規定する争議行為
    e 妊娠、出産、育児、介護等による欠勤、遅刻、早退
  • 厚生労働大臣は、年度の平均給与額が直近の支給限度額が変更された年度の前年度の平均給与額を超え、又は下るに至った場合においては、その上昇し、又は低下した比率を基準として、その翌年度の8月1日以後の支給限度額を変更しなければならない。(法61条7項)
  • 60歳到達日において算定基礎期間に相当する期間が5年に満たない場合は、その後の応当日において算定基礎期間に相当する期間が5年に達した時点で①の要件は満たされることとなる。ただし、高年齢雇用継続給付は65歳到達日の属する月までしか支給されないので当該月までに算定基礎期間に相当する期間が5年に達しなければ当該給付は受給できない。
  • 雇用継続給付基本給付金は、60歳の定年に達したことにより退職した後に他の雇用保険適用事業所の事業主に雇用された場合でも、一定の要件を満たせば支給される。A事業所(20日締め、末払い)で受給資格の確認を受け雇用継続給付基本給付金を受給していたが、A事業所を9月15日に退職し、9月16日にB事業所(10日締め、末払い)に勤めて給与を受けた場合、9月は初日から末日まで引き続き被保険者であるので支給対象月となる。A事業所とB事業所の給与が9月中に支払われ、かつ、賃金月額の75%未満である場合は、支給の対象となる。この場合、B事業所の賃金台帳等に加え、A事業所の賃金台帳も必要となる。

②支給額

高年齢雇用継続基本給付金の額は、1支給対象月に支払われた賃金の額に応じ、次のように計算される。

a 1支給対象月に支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の100分の61に相当する額未満である場合

支給額=支給対象月に支払われた賃金額×100分の15

b 1支給対象月に支払われた賃金の額がみなし賃金日額に30を乗じて得た額の100分の61に相当する額以上100分の75に相当する額未満である場合

支給額=支給対象月に支払われた賃金額×(100分の15-逓減率)

※この場合の支給額は、みなし賃金日額に30を乗じて得た額を到達時賃金と、支給対象月に支払われた賃金の額を到達後賃金額とすると次の算式により計算される。

-183/280×到達後賃金額+137.25/280×到達時賃金

(例1)みなし賃金日額に30を乗じて得た額が30万円であり、支給対象月に支払われた賃金の額が18.3万円である場合(61%に低下)の支給額は18.3万円の15%で27,450円となる。つまり賃金が61%に低下した場合には給付金の額が最大となる。

(例2)みなし賃金日額に30を乗じて得た額が30万円であり、支給対象月に支払われた賃金の額が21万(70%に低下)の支給額は9,803円となる。

高年齢雇用継続給付の給付金早見表

低下率 支給率 低下率 支給率
75.00%以上 0.00% 68.00% 6.73%
74.50% 0.44% 67.50% 7.26%
74.00% 0.88% 67.00% 7.80%
73.50% 1.33% 66.50% 8.35%
73.00% 1.79% 66.00% 8.91%
72.50% 2.25% 65.50% 9.48%
72.00% 2.72% 65.00% 10.05%
71.50% 3.20% 64.50% 10.64%
71.00% 3.68% 64.00% 11.23%
70.50% 4.17% 63.50% 11.84%
70.00% 4.67% 63.00% 12.45%
69.50% 5.17% 62.50% 13.07%
69.00% 5.68% 62.00% 13.70%
68.50% 6.20% 61.50% 14.35%
    61.00%以下 15.00%

【早見表の見方】
60歳到達時の賃金月額と比較した支給対象月に支払われた賃金額(みなし賃金額)の低下率に応じた支給率を、支給対象月に支払われた賃金額に乗ずることにより高年齢雇用継続給付の給付金の支給額がわかる。

 

  • 給付額の算定においては、非行、疾病等により支払われなかった賃金は算定の基礎とはならず、実際に支払われた賃金で算定される。
  • ①により算定された給付金の額と支給対象月に支払われた賃金の額の合算額が支給限度額を超えるときの給付金の額は、支給限度額から支給対象月に支払われた賃金の額を減じて得た額となる。(支給限度額を超える部分の給付金の額が減額される)

③受給手続

条文上は被保険者が行うことが原則となっているが、現実的には事業主が行う。

① 最初の支給申請

被保険者は、初めて高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けようとするときは、支給対象月の初日から起算して4箇月以内高年齢雇用継続給付支給申請書60歳到達等賃金証明証(60歳到達時に被保険者でなかった者がその後再就職して被保険者となった場合は直前の被保険者資格の喪失に係る離職票)を添えて、所轄公共職業安定所長に提出しなければならない。

高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書(PDF)の無料ダウンロード

  • あらかじめ受給資格等を照会するため、「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」を「高年齢雇用継続給付受給資格確認票」として60歳到達時等賃金証明書を添えて、初回の支給申請前に提出することも可能。この際、受給資格が確認され、賃金月額が登録された場合には、60歳到達時等賃金証明書に代えて、安定所から交付された受給資格確認通知書を支給申請書に添付する。
  • 支給申請書と賃金証明書の記載内容を確認できる書類(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など)、振込先銀行口座の預金通帳のコピー、被保険者の年齢が確認できる書類等(運転免許証か住民票の写し(コピーも可))を添付する必要がある。
② 2回目以後の支給申請

所轄公共職業安定所長は、最初の支給申請に基づいて高年齢雇用継続基本給付金を支給することを決定したときは、次回以後の支給申請を行うべき月を定め、次回に使用する支給申請書を交付するので、2回目以降は当該指定月に当該申請書で支給申請を行う。(申請日は公共職業安定所から交付される「高年齢雇用継続給付次回支給申請日指定通知書」に印字されている)

  • 2回目以後の支給申請を行うべき月を定めるに当たっては、1又は2の支給対象月について、当該支給対象月の初日から起算して4箇月を超えない範囲で定めることとされており、実際には連続する2の支給対象月について申請を行うこととなるので、支給申請は奇数月か偶数月のどちらかに支給申請することとなる。
  • 天災その他やむを得ない理由があるときは、提出期限を過ぎても受理されるが、この場合はその理由がやんだ日の翌日から起算して7日以内に提出しなければならない。
  • 高年齢雇用継続給付に関する手続は本来被保険者が行うものであるが、高年齢雇用継続給付の支給申請は、次の場合には被保険者に代わって事業主が行うことができる。(則101条の8)(→実際は事業主が提出するのが普通)
    a その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合)があるときは、その労働組合と事業主との間に書面による協定があるとき
    b 過半数労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者と事業主との間に書面による協定があるとき

(2)高年齢再就職給付金

①支給要件

高年齢再就職給付金は、60歳以上65歳以下の被保険者(高年齢継続被保険者を含む)が次の要件を満たす場合に、当該再就職後の支給対象月について支給される。

① 基本手当の支給を受けたことのある受給資格者であった者であって、60歳に達した日以後安定した職業に就くことにより被保険者(高年齢継続被保険者を含む)となったものであること
② 受給資格に係る離職の日において、算定基礎期間が5年以上あること
③ 再就職日の前日における支給残日数が100日以上であること
④ 再就職後の支給対象月に支払われた賃金の額が、「基本手当の日額の算定の基礎となった賃金日額に30を乗じて得た額」の100分の75に相当する額を下ること
⑤ 再就職後の支給対象月に支払われた賃金の額が支給限度額未満であること
⑥ 再就職後の支給対象月における高年齢再就職給付金の額として算定された額が下限額を超えていること
⑦ 当該再就職について、再就職手当の支給を受けていないこと

◎ 再就職後の支給対象月とは?

就職日の属する月から当該就職日の翌日から起算して2年(当該就職日の前日における基本手当の支給残日数が200日未満である被保険者については1年)を経過する日の属する月(その月が、当該被保険者が65歳に達する日の属する月後であるときは、65歳に達する日の属する月)までの期間内にある月であって、その月の初日から末日まで引き続いて被保険者であり、かつ、育児休業基本給付金又は介護休業給付金の支給を受けることができる休業をしなかった月をいう。

  • 基本手当の受給資格の決定を受けた60歳以上65歳以下の者であっても、基本手当を受けずに再就職した者には高年齢再就職給付金は支給されないが、所定の要件を満たせば高年齢雇用継続基本給付金が支給される。
  • 再就職後の支給対象月において、非行、疾病又は負傷等により支払いを受けることができなかった賃金がある場合には高年齢雇用継続基本給付金の場合と同様にその支払いを受けたものとみなして支給対象月における賃金の額を算定するので、これらの理由によって賃金の額が低下しても、高年齢再就職給付金は支給されない。
  • 同一の就職について、高年齢再就職給付金と再就職手当の両方を受給することはできない。どちらにするかは被保険者の選択による。再就職手当は再就職をした日の翌日から起算して1か月以内が申請期限となっているため、それを過ぎてから再就職手当の支給を申請することはできない。
  • ③の要件があるため離職してからどれくらいの期間内に再就職しなければならないのかを考察してみると、受給期間の延長の手続をしないで、離職してから11箇月後に再就職をした者には高年齢再就職給付金が支給されることはない。

②支給額

高年齢再就職給付金の額は、1支給対象月に支払われた賃金の額に応じ、次のようにして計算される。

a 再就職後の支給対象月に支払われた賃金の額が、基本手当の日額の算定の基礎となった賃金日額に30を乗じて得た額の100分の61に相当する額未満である場合

支給額=再就職後の支給対象月に支払われた賃金額×100分の15

b 再就職後の支給対象月に支払われた賃金の額が、基本手当の日額の算定の基礎となった賃金日額に30を乗じて得た額の100分の61に相当する額以上100分の75に相当する額未満である場合

支給額=再就職後の支給対象月に支払われた賃金額×(100分の15-逓減率)

  • 給付額の算定においては、非行、疾病等により支払われなかった賃金は算定の基礎とはならず、実際に支払われた賃金で算定される。
  • 算定された給付金の額と支給対象月に支払われた賃金の額の合算額が支給限度額を超えるときの給付金の額は、支給限度額から支給対象月に支払われた賃金の額を減じて得た額となる。(支給限度額を超える部分の給付金の額が減額される)

③受給手続

① 最初の支給申請

被保険者は、初めて高年齢再就職給付金の支給を受けようとするときは、再就職後の支給対象月の初日から起算して4箇月以内に高年齢雇用継続給付支給申請書を所轄公共職業安定所長に提出しなければならない。

  • 基本手当を受給したことにより、既に口座指定されている方については、この口座を給付の振込口座として使用することもできる。
② 2回目以後の支給申請

高年齢雇用継続基本給付金と同様、所轄公共職業安定所長は、最初の支給申請に基づいて高年齢雇再就職給付金を支給することを決定したときは、次回以後の支給申請を行うべき月を定め、次回に使用する支給申請書を交付するので、2回目以降は当該指定月に当該申請書で支給申請を行う。

  • 高年齢再就職給付金の支給申請の際は、申請書に60歳到達時等賃金証明書等を添付する必要はない。
  • 高年齢再就職給付金の場合も高年齢雇用継続基本給付金の場合と同様、労使協定がある場合には、支給申請を事業主が行うことができる。(則101条の8)

(3)給付制限

偽りその他不正の行為により次の失業等給付の支給を受け、又は受けようとした者には、当該給付の支給を受け、又は受けようとした日以後、当該各号に定める高年齢雇用継続給付を支給しない。ただし、やむを得ない理由がある場合には、当該高年齢雇用継続給付の全部又は一部を支給することができる。
①高年齢雇用継続基本給付金・・・高年齢雇用継続基本給付金
②高年齢再就職給付金又は当該給付金に係る受給資格に基づく求職者給付若しくは就職促進給付・・・高年齢再就職給付金

  • 高年齢雇用継続基本給付金の不正受給があった場合には、その後高年齢雇用継続基本給付金は支給されないが、求職者給付や就職促進給付が支給されなくなるわけではない。例えば当該被保険者の離職について基本手当は支給される。逆に不正受給により基本手当の給付制限があった場合には、高年齢再就職給付金は支給されない。

(3)特別支給の老齢厚生年金との併給調整

特別支給の老齢厚生年金(在職老齢年金)の支給を受けながら、同時に高齢者雇用継続給付の支給を受けている期間については、高齢者雇用継続給付の給付額に応じ、次のとおり年金の一部が支給停止される場合がある。

①標準報酬月額が、60歳到達時の賃金月額の61%以下である場合
→老齢厚生年金について、標準報酬月額の6%相当額が支給停止される。

②標準報酬月額が60歳到達時の賃金月額の61%を超えて75%未満の場合
→老齢厚生年金について、標準報酬月額に6%から徐々に逓減する律(支給停止率)を乗じて得た額が支給停止される。(下記早見表参照)

60歳到達時賃金月額/標準報酬月額分 年金停止率

75.00%以上

0.00%

74.00%

0.35%

73.00%

0.72%

72.00%

1.09%

71.00%

1.47%

70.00%

1.87%

69.00%

2.27%

68.00%

2.69%

67.00%

3.12%

66.00%

3.56%

65.00%

4.02%

64.00%

4.49%

63.00%

4.98%

62.00%

5.48%

61.00%以下

6.00%

③標準報酬月額が60歳到達時の賃金月額の75%以上である場合又は標準報酬月額が高年齢雇用継続給付の支給限度額以上である場合
→併給調整は行われない。

高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続についてパンフレット(PDF)H28.8.1以降の無料ダウンロード

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