雇用安定事業(雇用保険法第62条)
(1)事業活動の縮小時の雇用安定事業
景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合において、労働者を休業させる事業主その他労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行う。
当該事業に関する助成金として雇用調整助成金がある。当該助成金は、景気の変動、産業構造の変化等に伴い、事業活動の縮小を余儀なくされて休業、教育訓練又は出向等を行った事業主に対して、休業手当、賃金又は出向労働者に係る賃金負担額の一部を助成するもので、失業の予防を目的としている。
①要件
次の要件のいずれも満たすこと。
a 雇用保険の適用事業主であること。
b 売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること。
c 雇用保険被保険者数及び受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、大企業の場合は5%を超えてかつ6人以上、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上増加していないこと。
d 実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。
イ 休業の場合
労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること。(事業所の従業員(被保険者)全員について一斉に1時間以上実施されるものであっても可)
ロ 教育訓練の場合
イと同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであり、当該受講日において業務に就かないものであること。
ハ出向の場合
対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること。
e 過去に雇用調整助成金又は中小企業緊急雇用安定助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えていること。
f 他雇用関係助成金共通の要件
次ののいずれのもに該当する事業主でないこと
イ 不正受給(偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受けまたは受けようとすること)をしてから3年以内に支給申請をした事業主、あるいは支給申請日後、支給決定日までの間に不正受給をした事業主
ロ 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請日の翌日から起算して2か月以内に納付を行った事業主を除く)
ハ 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主
ニ 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主(これらの営業を行っていても、接待業務等に従事しない労働者の雇い入れに係る助成金については、受給が認められる場合があり)
ホ 暴力団関係事業主
ヘ 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
ト 不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名等の公表について、あらかじめ同意していない事業主
②支給額
事業主が支払った休業手当等負担額の相当額に次の助成率を乗じた額。
助成内容と受給できる金額 | 大企業 | 中小企業 |
---|---|---|
休業等を実施した場合の休業手当または賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成(率) | 1/2 | 2/3 |
ただし教育訓練を行った場合は、これに1人あたり1日1,200円の額が加算される。
休業・教育訓練の場合、その初日から1年の間に最大100日分、3年の間に最大150日分受給可能。出向の場合は最長1年の出向期間中受給可能。
(2)再就職促進のための雇用安定事業
離職を余儀なくされる労働者に対して、雇用対策法に規定する休暇を与える事業主その他当該労働者の再就職を促進するために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行う。
当該事業に関する助成金としては労働移動支援助成金があり、その中に雇用対策法に基づき再就職援助計画を作成し、公共職業安定所長の認定を受けた事業主が、計画対象被保険者に対し、求職活動のための有給休暇を支払ったり、職業紹介事業者に計画対象被保険者の再就職にかかわる支援を委託し、その委託にかかわる費用を負担したりした事業主に対して支給される再就職支援奨励金、再就職援助計画等の対象となった労働者の雇入れ、または移籍による労働者の受入れ、または在籍出向から移籍への切り換えによる労働者の受入れを行い、それらの労働者に対してOff-JTのみまたはOff-JT及びOJTを行った事業主に対して支給される受入れ人材育成支援奨励金がある。
(3)高年齢者等の雇用安定事業
定年の引上げ、高年齢者等に対し再就職の援助を行い、若しくは高年齢者等を雇い入れる事業主その他高年齢者等の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行う
(4)地域における雇用安定事業
雇用機会を増大させる必要がある地域への事業所の移転により新たに労働者を雇い入れる事業主、季節的に失業する者が多数居住する地域においてこれらの者を年間を通じて雇用する事業主その他雇用に関する状況を改善する必要がある地域における労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行う
当該事業に関する助成金等としては、次のようなものがある。
① 地域雇用開発促進助成金
同意雇用機会増大促進地域(都道府県が策定し、厚生労働大臣が同意した地域雇用機会増大計画に定められた雇用機会増大促進地域)、過疎雇用改善地域(厚生労働大臣が指定した地域)若しくは農山村地域において、事業所を設置若しくは整備して、その地域に居住する求職者等を継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主又は同意高度技能活用雇用安定地域内に所在する事業主であって、高度技能労働者を受け入れ、かつ、当該地域内に居住する求職者を常用労働者として雇い入れる事業主に対して支給される。地域雇用促進奨励金、地域雇用促進奨励金の対象となる事業主であって、事業所の設定若しくは整備に伴い再就職援助計画の対象労働者を5人(小規模事業所にあっては3人)以上雇い入れた事業主、又は農山村雇用開発計画若しくは大規模雇用開発計画に基づく事業所の設置に伴い一定数以上の労働者を雇い入れた事業主に対して支給される地域雇用促進特別奨励金及び同意高度技能活用雇用安定地域において、その雇用する労働者の労働環境の改善を図るための設備又は福祉施設を設置又は整備し、かつ、当該設置又は整備に伴い、当該地域内に居住する求職者を常用労働者として雇い入れる事業主に対して支給される地域雇用促進環境整備奨励金からなる。
② 通年雇用安定給付金
北海道、東北地方など気象条件の厳しい積雪寒冷地において、季節的業務に就くものを通年雇用した事業主に対して助成されるもので、季節的な失業の発生を防止するとともに、これらの者の常用雇用化を促進することを目的としている。
③ 沖縄若年者雇用開発助成金
沖縄県の区域内で沖縄労働局長の認定を受けた計画に沿って施設や設備の新増設等を行い、沖縄県に居住する30歳未満の若年者等を3人以上常用労働者として雇い入れる事業主に対して助成するものである。
(5)その他の雇用安定事業
障害者その他就職が特に困難な者の雇入れの促進、雇用に関する状況が全国的に悪化した場合における労働者の雇入れの促進その他被保険者等の雇用の安定を図るために必要な事業であつて、厚生労働省令で定めるものを行うこと
当該事業に関する助成金等としては、特定求職者雇用開発助成金がある。特定求職者雇用開発助成金には特定就職困難者雇用開発助成金と高年齢者雇用開発特別奨励金がある。
① 特定就職困難者雇用開発助成金
1 要件
以下のすべてに該当する事業主であること。
a 雇用保険の適用事業主であること
b 対象労働者(雇入れられた日現在における満年齢が65歳未満の者に限る)をハローワーク、地方運輸局、適正な運用を期すことのできる有料・無料の職業紹介事業者または無料船員職業紹介事業者の紹介により、雇用保険の一般被保険者として雇い入れる事業主であること
c 対象労働者を雇用保険の一般被保険者として継続して雇用すること(対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ、当該雇用期間が継続して2年以上であることをいう)が確実であると認められる事業主であること
d 資本、資金、人事、取引などの状況からみて対象労働者を雇用していた事業主と密接な関係にある事業主でないこと
e 対象労働者の雇入れ日の前後6か月間に事業主の都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと
f 対象労働者の雇入れ日の前後6か月間に倒産や解雇など特定受給資格者となる離職理由の被保険者数が対象労働者の雇入れ日における被保険者数の6%を超えていない(特定受給資格者となる離職理由の被保険者が3人以下の場合を除く)こと
g 対象労働者の出勤状況及び賃金の支払い状況等を明らかにする書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿など)を整備・保管し、速やかに提出する事業主であること 等
◎対象労働者とは?
次のいずれかに該当する65歳未満(ヘ~チに該当する者にあっては45歳以上65歳未満)の求職者をいう。
イ 60歳以上の高年齢者
ロ 身体障害者、知的障害者及び精神障害者
ハ 母子家庭の母等
ニ 中国残留邦人等永住帰国者
ホ 炭鉱離職者求職手帳所持者
ヘ 認定駐留軍関係離職者
ト 沖縄失業者求職者手帳等各種求職者手帳所持者
チ その他の就職困難者 等
2 支給額
対象労働者 | 支給額 | 助成対象期間 | 支給対象期ごとの支給額 | |
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短時間労働者以外の者 | [1]高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等 | 90万円 (50万円) |
1年 (1年) |
第1期45(25)万円 第2期45(25)万円 |
[2]重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 135万円 (50万円) |
1年6か月 (1年) |
第1期45(25)万円 第2期45(25)万円 第3期45( – )万円 |
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[3]重度障害者等(※2) | 240万円 (100万円) |
2年 (1年6か月) |
第1期60(33)万円 第2期60(33)万円 第3期60(34)万円 第4期60( – )万円 |
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短時間労働者(※1) | [4] 高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等 | 60万円 (30万円) |
1年 (1年) |
第1期30(15)万円 第2期30(15)万円 |
[5]重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 90万円 (30万円) |
1年6か月 (1年) |
第1期30(15)万円 第2期30(15)万円 第3期30( – )万円 |
( )内は中小企業事業主以外に対する支給額および助成対象期間
※1「重度障害者等」とは、重度の身体・知的障害者、45歳以上の身体・知的障害者及び精神障害者をいう。
※2「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者をいう。
ただし、支給対象期ごとの支給額は、支給対象期中に対象労働者に対して支払った賃金額を上限する。
② 高年齢者雇用開発特別奨励金
雇入れ日の満年齢が65歳以上の離職者を、ハローワーク等の紹介により、一週間の所定労働時間が20時間以上の労働者として雇い入れる事業主(1年以上継続して雇用する事が確実な場合に限る)に対して、助成金が支給される。