36協定による時間外・休日労働


36協定による時間外、休日労働(労働基準法第36条)

使用者は、労使協定をしこれを行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間又は第35条の休日に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し又は、休日に労働させることができる。 等


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本条は、労働基準法第33条の規定(災害等による臨時の必要がある場合の時間外、休日労働)と並んで、労働基準法第32条から
32条の5まで、35条及び40条に規定する労働時間を延長し、又は労働基準法第35条に規定する休日に労働させる場合に必要な手続を定めたものである。その手続は、労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定の締結とその協定の行政官庁への届出を要件としており、労働基準法第36条に規定されていることからこの労使協定を一般に36協定(サブロクキョウテイ)と呼んでいる。

(1)要件

労使協定で次の事項を定め、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出ること。

①時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由
②業務の種類
③労働者の数
④1日及び1日を超える一定の期間についての延長することができる時間又は労働させることができる休日
⑤労使協定(労働協約である場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設置改善委員会の決議を含む。)の有効期間

  • 36協定において一定期間について延長することができる時間を定めるに当たってその一定期間は1日を超え3箇月以内の期間及び1年間としなければならない。
  • 労働協約によって締結した場合、つまり協定当事者が労働者の過半数で組織する労働組合である場合には、労働組合法第15条が適用され、その有効期間は3年を超えて定めることはできない。また有効期間の定めがない労働協約の場合は、少なくとも90日前に相手方に予告することによって解約することができる。
  • フレックスタイム制を採用している場合は、1日について延長することができる時間を協定する必要はない。(清算期間を通算して時間外労働することができる時間及び1年間についての延長時間を協定すればよい。(通達)
  • 36協定に定めた限度を超えて時間外・休日労働をさせることは、たとえ労働者の同意がある場合であっても、災害等又は公務による臨時の必要がある場合他は、違法行為である(通達)
  • 派遣労働者の場合は、派遣元の使用者が、当該派遣元事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(それがない場合は当該労働者の過半数を代表とするもの)と36協定を締結することになる(通達)
  • 36協定の有効期間内に労働者又は使用者より一方的に協定破棄の申入れををしても他方においてこれに応じないときは、協定の効力には影響がない(通達)
  • 労働時間の延長の限度等に関する基準に適合しない協定が直ちに無効となるわけでも、その協定を所轄労働基準監督署長が当該基準に適合したものに変更できるわけでもない(助言・指導が行えるに過ぎない)(通達)

(2)効果

法定労働時間及び変形労働時間制による労働時間を延長し、又は法定休日に労働させることができる。(ただし割増賃金支払いの義務が生じる

(3)有害業務の時間外労働制限

たとえ36協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ていたとしても、坑内労働その他厚生労省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日につき2時間を超えてはならない。

  • 有害業務が10時間を超えなれければ、その他を含めた労働時間が10時間を超えても本条違反ではない。(通達)
  • 1日について2時間を超えて労働時間を延長することが出来ないのは「有害業務(坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務)]であって、「法第62条第1項に規定する危険業務(厚生労働省令で定める危険な業務)」ではないことにも留意のこと。
  • 本条は、変形労働時間制を定める場合にはその特定の日の所定労働時間を超える部分についても適用されるので、変形労働時間制によりその日の所定労時間が10時間であった場合には12時間まで労働させることができる。 (通達)
  • 本条は、休日においては10時間を超えて休日労働させることを禁止する趣旨である。(通達)
  • 有害業務には「深夜業を含む業務」や「病原体によって汚染の恐れが著しい業務」は含まれていない。

この有害業務に該当するものとしては、坑内労働の他に次のようなものがある。(労働基準法施工規則第18条)
a 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
b 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
c ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
d 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
e 異常気圧下における業務
f 削岩機、鋲打機等の使用によつて身体に著しい振動を与える業務
g 重量物の取扱い等重激なる業務
h ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
i 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務 等

(4)労働時間の延長の限度基準

①基準の制定

厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、36協定で定める労働時間の延長限度その他必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事項を考慮して基準を定めることができる。労使当事者は協定内容が基準に適合したものとなるようにしなければならない。また行政官庁(所轄労働基準監督署長)は、この基準に関し労使当事者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

基準に適合したものとなるようにしなければならないとされているが、これには罰則の適用がないため、基準を超える協定をしても処罰されることはない。

②労働時間の延長の限度

36協定では一定期間(1日を超える一定の期間)についての延長時間を定めなければならないとされており、その際には、当該一定期間についての延長時間は、次の表の限度時間を超えないものとしなければならない。(告示)

一定期間 限度時間
1週間   15時間(14時間)
2週間   27時間(25時間)
4週間   43時間(40時間)
1箇月   45時間(42時間)
2箇月   81時間(75時間)
3箇月  120時間(110時間)
1年間  360時間(320時間)

※( )内は、1年単位の変形労働時間制により労働する労働者(対象期間が3箇月を超える者に限る)についての限度時間

  • 時間外労使協定には、「あらかじめ、限度時間以内の時間の一定期間についての延長期間を定め、かつ、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)が生じたときに限り、一定期間についての延長時間を定めた当該一定期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、限度時間を超える一定時間まで労働時間を延長することができる旨」を定めることができ、これに従い基準を超えて労働させることができる。なお「臨時的なもの」とは、一時的又は突発的に時間外労働をさせる必要があるものであり、全体として1年の半分を超えないことが見込まれるものであって、具体的な事由を掲げず、「単に業務の都合上必要なとき」又は「業務上やむを得ないとき」と定める等恒常的な長時間労働を招く恐れがあるもの等については、「臨時的なもの」に該当しない。また当該特別条項付き協定には1日を超え3箇月以内の一定の期間について、原則となる延長時間を超え、特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するものとして取り扱うこととし、当該回数については、特定の労働者についての特別条項付き協定の適用が1年のうち半分を超えないものとすることとされている。従って、例えば、一定期間を1箇月と定めた場合、特別延長することができる回数は1年で6回以内に限られることとなる。(通達)
  • 労使協定当事者は、時間外労働協定において一定期間についての延長期間を定めるに当たっては、当該一定期間は1日を超え3箇月以内の期間及び1年間としなければならないとされているため、時間外労働協定において一定期間についての延長期間を定めるに当たっては、1年間についての延長時間(事業が完了し、又は業務が終了するまでの期間が1年未満である場合は、当該完了又は終了するまでの期間)は必ず定めなければならない。(通達)
  • 次の事業又は業務に係る時間外労働協定については、延長時間の限度に関する規定は適用されない。ただし、dの事業又は業務の場合は1年間の限度時間(360時間)の規定は適用される。(通達)
    a 工作物の建設等の事業
    b 自動車の運転の業務
    c 新技術、新商品等の研究開発の業務
    d その他厚生労働省労働基準局長が指定する事業又は業務(造船事業における船舶の改造、修繕の業務、郵政事業の年末、年始における業務等)
  • 36協定は、締結のみならず、所轄労働基準監督署長への届出が効力発生要件とされている。
  • 36協定の届出は、法令様式(通常、様式第9号)によることが必要となる。この場合、協定書そのものの提出は必要ないが事業場に保存を要す。(通達) なお、法令様式第9号を協定書として利用することは可能であり、この場合は、同様式の当事者欄に双方の捺印等を行う。
  • 協定の有効期間について自動更新の定めが為されている場合においては、本条の届出は当該協定の更新について労使両当事者から異議申出がなかった事実を証明する書面を届け出ることをもって足りるものであること。(自動更新の場合にも届出が必要となる)(通達)
  • 労働者が遅刻したときにその時間だけ通常の終了時刻を繰り下げて労働させる場合、1日の実労働時間を通算すれば労働基準法第32条又は40条の労働時間を超えないときは、労働基準法第36条に基づく協定及び37条に基づく割増賃金支払の必要はない。(通達)
  • 交通機関の早朝ストライキ等1日のうちの一部の時間帯のストライキによる交通事情等のため、始業終業時刻を繰下げたり、繰上げることは、実労働8時間の範囲である限り時間外労働の問題は生じない。(通達)
  • 36協定の根拠規定である労働基準法第36条1項本文には、「罰則」の定めがない。これは使用者が、36協定を締結・届出しないで(あるいは協定の範囲を超えて)、時間外労働や休日労働をさせた場合には、本条(第36条1項)による免責効果(合法化)が生じない結果として、労働時間、休日の原則を定めた労働基準法第32条、35条の違反が生じ、同条に設けられた119条1号の「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」により処罰されることになるものである。
  • 1日2時間を超えることができないとされる有害業務の制限違反(第36条1項但書)については、同但書に直接119条1号の罰則が規定されており、その罰則が科される。 →6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金
  • 「延長時間の限度基準」に関しては、「協定の内容が基準に適合したものとなるようにしなければならない」と規定され、罰則は設けられていない。

(関連ニュース記事)

・那覇労働基準監督署は24日、違法な時間外労働と時間外労働にかかる割増賃金の不払いがあったとして、労働基準法違反の疑いで逮捕したオフィス用品や書籍販売の株式会社「安木屋」社長の安仁屋健作容疑者(42)と店長の男(36)を那覇地検に送致した。法人としての同社も同法違反容疑で地検に書類送致した。2人の逮捕・送検について同署は、2年以上行政指導を繰り返しても改善に応じなかった悪質性に加え、証拠隠滅の恐れがあると判断したと説明した。同署は「重大、悪質事案は司法処分も含め厳正に対処する」として、監督指導の強化を図るとしている。

那覇労基署の風間勝署長らが県庁で会見した。安木屋は2015年4月26日から約2年間、労働者に時間外労働させるために必要な労使協定(三六協定)を結ばず、法定の労働時間を超え、非正規を含む従業員を働かせた。1人当たり最大で週16時間、1日8時間30分の時間外労働をさせていた。また、正社員12人に対して15年4月26日から2年間、時間外労働させた場合に必要な割増賃金、計583万3898円の不払いがあった。1人当たりの最高額は約90万円だった。

容疑の発覚は15年2月、那覇労基署の監督官が任意調査の「定期監督」で同社を訪れた際に、三六協定の未届けや残業代の不払いなどを確認。その後、少なくとも5回の是正勧告をしたが、安仁屋容疑者と店長はこれに応じず、面会もできなかったという。

逮捕・送検を判断した詳細については「捜査中」として答えなかったが、「署の求めに応じず、強制でなければ調査できない状況があった。(社長と店長による)共謀、罪証(証拠)隠滅の恐れがある」と説明。従業員への圧力やかん口令などにも配慮したとみられる。

送検を受けて安木屋の安仁屋博一会長は「この件に関しては真摯(しんし)に受け止めます」とコメントした。

沖縄労働局によると、那覇労基署管内で労働関係法令違反により逮捕、身柄を送検された事例は初で、県内では記録が確認できる1989年以来初めてだという。今回の違反が確定した場合、6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処される。(産経新聞平成29年8月25日より引用)

・臓器移植や救急など高度医療を担う国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)が、勤務医や看護職員の時間外労働を「月300時間」まで可能にする労働基準法36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)を結んでいたことが、弁護士による情報公開請求でわかった。国の過労死認定基準(過労死ライン)の「月100時間」の3倍にあたる長さで、国循は今後協定内容を見直す方針という。

府内の主要病院が労働基準監督署に届け出た36協定の開示を、過労死問題に取り組む松丸正弁護士(大阪弁護士会)が国に請求。国循の36協定(2012年4月1日付)では、非常勤を含む勤務医や一部の看護師、研究職ら約700人について、特別な事情がある場合、「月300時間、年間2070時間」まで時間外の労働時間を延長できる(年6回まで)内容となっていた。

病院側と「労働者過半数」の代表とが取り交わしたもの。ほかの病院は上限100時間前後までの協定が多かった。

国循は取材に、実際の勤務は「(36協定の上限時間までに)十分余裕はある」と説明。長時間労働の場合は所属長に勤務の分担を求めたり、職員に産業医との面談を勧めたりしているとした上で、「国で議論されている(働き方改革の)内容を踏まえ協定内容を見直す予定だ」と明らかにした。(朝日新聞平成29年9月7日より引用)

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