割増賃金


割増賃金(労働基準法第37条)

使用者が、第33条「災害時等臨時の必要時」又は前条第1項「36協定」の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率(延長した場合には2割5分、休日労働した場合には3割5分)以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 等

(1)割増賃金の額(法37条1項~3項)

割増賃金の額は次のようになる。

① 時間外労働
法定労働時間又は変形労働時間制による労働時間を延長して労働させた場合。
→ 通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率で計算した額

② 休日労働
法定休日に労働させた場合
→ 通常の労働日の賃金の3割5分以上の率計算した額

③ 深夜労働
午後10時から午前5時(特定地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に労働させた場合。
→ 通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率で計算した額

④ 時間外労働が深夜に及んだ場合
→ 通常の労働時間の賃金の5割以上の率で計算した額

⑤ 休日労働が深夜に及んだ場合
→ 通常の労働時間の賃金の6割以上の率で計算した額

⑥ 1か月に60時間を超える時間外労働を行う場合(※ただし、中小企業については猶予中)
→ 通常の労働時間の賃金の5割以上の率で計算した額

  • 通常の労働時間の賃金を算出するには、月給制の場合は1箇月の所定賃金(基本給+諸手当)を1箇月の所定労働時間数で除して、時給を出す。例えば、1箇月の所定賃金が32万円で、1箇月の所定労働時間が160時間の労働者がいるとすれば、その労働者の通常の労働時間は、32万円÷160=2000円となる。(1円未満四捨五入)
  • 休日労働に対する時間外労働という概念はない。休日に8時間以上労働したからといっても、それは時間外労働ではなくあくまで休日労働なので35%のままである。ただし、それが深夜業に及んだときには60%になる。(通達)
  • 本条は強行規定なので、たとえ、その時間外労働等が臨時の必要や36協定によらず違法なものであっても、あるいは、労使合意の上で割増賃金を支払わない申し合わせをしても割増賃金を支払わなければならない。(通達)
  • 派遣先の使用者に時間外労働を行わせる権限のあるないにかかわらず、派遣先の使用者が派遣中の労働者に法定時間外労働をさせた場合は、派遣元の使用者に割増賃金の支払い義務が生じる。(通達)
  • 法41条は深夜業の規定の適用を排除していないから、24時間交替勤務することを条件として賃金が定められている労働者について、法41条3号によって使用者が行政官庁の許可を受けて使用する場合にあっても、使用者は深夜業の割増賃金を支払わなければならない。ただし、労働協約、就業規則その他によって深夜の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることは明らかな場合は、別に深夜業の割増賃金を支払う必要がない。(通達)
  • 割増賃金の計算の便宜上、一箇月における時間外休日労働及び深夜労働の各時間数の合計に1時間未満の端数がある場合は30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる措置は法違反として取り扱わない。(通達)
  • 一昼夜交替勤務に就く者について、夜間継続4時間の睡眠時間を与えた場合は、それが深夜にわたる場合であっても、その時間についてこれを休憩時間とみなし、深夜割増賃金を支払わなくてよい(通達)
  • 時間外労働が引き続き翌日の法定休日に及んだ場合、法定休日の午前0時以後は休日労働に対する割増賃金を支払わなければならない(通達)
  • 時間外労働が引き続き翌日の所定労働時間に及んだ場合、(勤務が終了した数時間後に緊急事態発生のために特別勤務する場合を含む)は、その翌日の所定労働時間の式までの超過時間に対して時間外割増賃金及び深夜割増賃金を支払えばよい(通達)
  • 2割5分以上5割以下の範囲で政令で定められているのは時間外労働及び休日労働の割増賃金の率であって、深夜労働の割増賃金の率ではない(法37条1項,3項)
  • 割増賃金の計算の基礎となる「通常労働時間又は労働日の賃金の計算額」とは、次の方法により計算した1時間当たりの賃金額に、時間外労働、休日労働又は深夜労働の時間数を乗じた金額である(則19条1項)
    1)時間によって定められた賃金については、その金額
    2)日によって定めたれた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日平均所定労働時間数)で除した金額
    3)週によって定められた賃金については、その金額をつきにおける所定労働時間数(週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週平均所定労働時間数)で除した金額
    4)月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(つきによって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で除した金額
    5)月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、1)~4)に準じて算定した金額
    6)出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間。以下同じ)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額。なお、法第27条の出来高払制の保障給も請負給の一種であり、この方法による。
    7)労働者の請ける賃金が1)~6)の2以上の賃金により異なる場合には、その部分について1)~6)によってそれぞれ算定した金額の合計額なお、休日手当(休日労働について支払われる割増賃金ではなく、所定休日に労働すると否とにかかわらずその日について支払われる賃金)その他上記の1)~7)に含まれない賃金は、上記の計算においては、これを月によって定められた賃金とみなす。

(全額歩合給の例)

全額歩合給で月額20万円の従業員の場合、その月200時間(残業を含む)働き20万円の歩合給を得ていたとすると、

1時間当たりの歩合給は 20万円÷200時間=1,000円×0.25(1.25ではない)=250円が1時間当たりの残業に対する割増賃金単価となる。

 

 

(2)割増賃金の計算の基礎に算入しない賃金(法37条4項、則21条)

次の賃金については、割増賃金の基礎となる賃金から除くこととされているが、もちろん除かなくとも差し支えない。

家族手当
通勤手当
別居手当
子女教育手当
住宅手当
臨時に支払われた賃金(祝金や見舞金など)
1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)

  • ここで除かれるとされている手当は、労働者に一律に支給されない手当のことである(労働と直接的な関係が薄く個人的な事情に基づいて支払われる賃金は割増賃金にはなじまないという趣旨で除かれている)。
  • 年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計して予め年俸額が確定している場合の賞与部分は、割増賃金の基礎となる賃金に算入しなければならない(通達)。
  • 則21条の除外賃金については、制限的列挙であるとされているので、これ以外の賃金、例えば危険作業手当、特殊作業手当などは、割増賃金の基礎となる賃金に算入しなければならない(通達)
  • 家族手当と称していても、家族の数に関係なく一律に支給していれば割増賃金の算定基礎となる賃金に算入しなければならない。また、通勤手当のうち一定額が最低保障として距離に係らず支給される場合は、その一定額も算入しなければならない。(通達)
  • 所定労働時間の一部又は全部が深夜である看護婦等の業務に従事する看護婦等に支払われる夜間監護手当は、割増賃金の基礎に算入しなくてもよい。(通達)
  • 坑内係員が入坑した場合に支給される坑内手当は、坑内係員が坑外において時間外勤務した場合には、割増賃金の基礎に算入しない。(通達)
  • 住宅手当と称していても、住宅に要する費用以外の費用に応じて算定される手当や、住宅に要する費用にかかわらず一律に定額で支給される手当は、本条の住宅手当に当たらない(割増賃金の基礎となる賃金に算入しなければならない)。これを例示すると次の通りである。(通達)
    イ)住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの。例えば、賃金住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給することとされているようなもの。
    ロ)住宅以外の要素に応じて定率または定額で支給することとされているもの。
    例えば、扶養家族があるものには2万円、扶養家族がないものには1万円を支給することとされているようなもの。
    ハ)全員に一律に定額で支給することとされているもの。
  • 給与所得に対する所得税を毎月使用者側において負担するため、臨時補給金を支給している場合、当該臨時補給金中については、必ずしも扶養家族の数に応じて増減するものではないから家族手当を基礎として算定される部分の補給金を区別する方法がないので、当該補給金は全額割増賃金の基礎に含めるべきである(通達)
  • 所定労働時間が1日7時間である事業場において、所定労働時間を超え、所定労働時間にいたるまでの所定時間外労働に対する賃金として、本給の外に一定月額の手当を定められている場合、その手当は、法第37条にいう通常の労働時間の賃金とは認められないので、同上の規定による割増賃金の基礎に算入しなくても差し支えない(通達)
  • 乙がその日の特殊事情によって通常従事している職務を離れ、たまたま甲が担当している作業(特殊作業)に従事し、その特殊作業の勤務が法第32条及び法第40条の労働時間外に及ぶときは、その超過労働時間に対しては、その特殊作業について支給される特殊作業手当を法第37条の割増賃金の基礎となる賃金に算入して計算した割増賃金を支払わなければならない(通達)
  • ある作業中にやむをえない事情により特殊な危険作業に従事する場合に支払われる危険作業手当については、当該危険作業が法第32条及び法第40条の労働時間外に及ぶ場合においては、危険作業手当を法第37条の割増賃金の基礎となる賃金に算入して計算した割増賃金を支払わなければならない(通達)

(3)割増賃金の支払が必要な場合

割増賃金必要

①法33条により、災害等によって臨時の必要がある場合に法定労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合
②法33条により、公務のために臨時の必要がある場合に法定労働時間を延長し、又は休日労働させた場合
③36協定により、法定労働時間を延長し、又は休日労働させた場合
④深夜に労働させた場合

割増賃金不要

①就業規則で所定労働時間を7時間と定め、8時間労働させた場合
②変形労働時間制において、特定の日の労働時間を11時間と定めた場合の3時間
③振替休日
④週休2日制を定めている場合において、法定休日以外の日に労働させた場合※

※休日労働に対する割増賃金の支払いが不要というだけであり、法定休日外の日に労働させたことにより、1日又は1週の法定労働時間を超えた場合は、時間外労働に対する割増賃金が必要となる。

  • 法37条の規定により、休日労働に対し割増賃金を支払わなければならないのは法35条の休日のみであり、それ以外の休日の労働により週の法定労働時間を超える場合には、時間外労働の割増賃金を要する。(通達)

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