労働時間の原則


労働時間の原則(労働基準法第32条)

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

(1)労働時間の定義

使用者の明示又は黙示の指示によって、労働者が使用者の指揮監督下に置かれている状態をいう。

労働時間になるもの

①手待時間(待機時間)
②受講義務のある教育訓練時間
③労働安全衛生委員会の会議時間
④消防訓練時間
⑤特殊健康診断の受信時間
⑥坑内作業の準備、整理整頓時間 

労働時間にならないもの

①通常の休憩時間
②出張旅行時間
③受講義務のない教育訓練時間
④一般健康診断の受診時間
⑤坑内労働者の入浴時間

  • 労働時間は、単に使用者の指揮監督下で作業をしている時間に止まるものではなく、使用者の指揮監督下で作業準備をしていたり、待機している時間も含まれる。(例) 貨物取扱いの事業場において、貨物の積込係り、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合とか、運転手が2名乗り込んで交代で運転に当たる場合において、運転しない者が助手席で、休息し、又は仮眠しているときであってもそれは「労働」であり、その状態にある時間(これを「手待ち時間」という)は労働時間である。
  • 訪問介護労働者の事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する移動時間については、使用者が業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には労働時間に該当する。(通達)
  • 運送業における運転手の手あき時間(停車時間、待合せ時間など)については、労働者の時間の自由利用が保障されている場合には、労働時間とはされず、休憩時間扱いされる場合が多い(通達)
  • 出張の際の旅行時間については、通勤時間と同じで労働時間ではないとされる場合が多い。
  • 一般健康診断については、「一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、事業者の負担すべきものではなく労使が協議して定めるべきものであるが労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」(昭和47年9月18日基発602号)とされっており、労働時間とするかしないかは労使で決定し、当然には労働時間とはならない。一般健康診断の受診は、労使双方にとっての責務であるため、所定労働時間中の場合は労働時間として取扱い、所定労働時間外の場合は、労働時間とはみなされないというところが、一般的な対応となる。特殊健康診断については、「事業の遂行にからんで行われる当然実施されなければならないものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当然健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること」とされている。

休憩時間とは?

労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいうので、その休憩時間に来客当番として待機させているような場合は労働時間となる(通達)

(2)法定労働時間の原則

1週間につき40時間、1日につき8時間法定労働時間となる。

1週間とは?

就業規則その他別段の定めがない限り、日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいう。(通達)

  • 児童の場合の法定労働時間は、1週間につき「修学時間を通算して40時間」となる(労働基準法第60条2項)
  • 平成13年までの暫定措置として、学校教育法第1条に規定する小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園の教育職員を使用する者については、1週間の労働時間の上限が44時間とされていた。
  • 映画の製作の事業の1週間の労働時間の上限は、常時10人未満の労働者を使用する場合であっても、40時間である。

1日とは?(夜勤勤務の取り扱いについて)

午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいう。夜勤勤務のように継続勤務が2暦日にわたる場合は始業時刻が属する日の労働として扱う。なお、あらかじめ交代制の勤務が就業規則として決められていて、制度として正しく運用されており、労働時間の割り当てが不規則になっていない場合に限り、暦日ではなく連続した24時間の休養を一日の休日と扱ってよい。例えば、朝5時に仕事が終わった場合、翌日の朝5時まで仕事が無ければ、それを一日の休日とすることができる(通達)

  • 児童の場合の法定労働時間は、1日につき「修学時間を通算して7時間」となる
  • 年少者については労働時間の特例の適用がない(労働時間の特例に該当する事業であっても、年少者に対しては週の労働時間は40時間までとしなければならない。)(労働基準法第60条2項)
  • 午前0時をはさんで前後8時間「16時間隔日勤務制」を採用する場合、暦日でみて1日8時間労働となるのではなく、前日から引き続く16時間労働となるので、変形労働時間制を採用する等の手続きが必要となる。

(3)労働時間の特例措置(労働基準法第40条、労働基準法施行規則第25条の2)

常時10人未満の労働者を使用する商業映画演劇業(映画の製作の事業を除く。)保健衛生業接客娯楽業については、労働基準法第32条の規定にかかわらず、1週間につき44時間、1日につき8時間が法定労働時間となる。

  • 当該特例の下に、1箇月単位の変形労働時間制及びフレックスタイム制を採用することはできるが、1年単位の変形労働時間制及び1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用することはできない。(通達)
  • 週1~2日勤務のパートタイム労働者であっても継続的に当該事業場に勤務しているものは労働者数に算入する。(通達)
  • 派遣労働者は、派遣先事業場の労働者数に算入する。(通達)

(4)労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)

1 趣旨
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。
しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。
このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。

2 適用の範囲
本ガイドラインの対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場であること。
また、本ガイドラインに基づき使用者(使用者から労働時間を管理する権限の委譲を受けた者を含む。以下同じ。)が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者であること。
なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

3 労働時間の考え方
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。
ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
(1)始業・終業時刻の確認及び記録
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。

(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置上記

(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
ア 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
ウ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
エ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
オ 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。
また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる 36 協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

(4)賃金台帳の適正な調製
使用者は、労働基準法第 108 条及び同法施行規則第 54 条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。
また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第 120 条に基づき、30 万円以下の罰金に処されること。

(5)労働時間の記録に関する書類の保存
使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第 109 条に基づき、3年間保存しなければならないこと。

(6)労働時間を管理する者の職務
事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。

(7)労働時間等設定改善委員会等の活用
使用者は、事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。

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