年次有給休暇(労働基準法第39条)
使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。 等
(1)年次有給休暇の付与(法39条1項、2項)
①要件
年次有給休暇の権利は、次の要件を満たしたときに法律上当然に発生する。換言すると、権利が発生するには以下の要件を満たせば十分であり、労働者の休暇の請求やこれに対する使用者の承認が必要となるわけではない。
a 6箇月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤していること
b 1年6箇月以上継続勤務した労働者の場合は、6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間の初日の前日が属する期間において全労働日の8割以上出勤していること
継続勤務とは?
継続勤務は出勤を意味するのではなく、労働契約の存続期間すなわち、事業場における在籍期間を指し、実質的に労働契約が継続している限り継続勤務として勤務年数を通算しなければならない。次の場合も継続勤務に含まれる。(通達)
イ 定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合も含む)ただし、退職と再採用との間に相当期間が在し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでない。
ロ 法21条に該当する者(臨時的・短期的に雇用される者)でも、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合。
ハ 臨時工が一定月ごとに雇用契約を更新され、6箇月以上に及んでいる場合であって、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合。
二 在籍型の出向をした場合。
ホ 休職とされていた者が復職した場合
へ 臨時工、パート等が正規職員に切り替えた場合
ト 会社が解散し、従業員の待遇等を含め権利義務関係が新会社に包括継承された場合
チ 全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後改めて一部を再採用したが、事業の実態は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続している場合
- 年次有給休暇の権利は、労基法第39条第1項及び第2項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって初めて生ずるものではない。労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、客観的に同条第4項但書「使用者の時季変更権」所定の事由が存在し、かつこれを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り、当該指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である(判例)
- 公共事業に従事している一般職の日日雇い入れられる非常勤職員が会計年度末に退職し、次会計年度の当初に約10日間の離職期間があって後特別職の職員として採用された場合、前後を通じて同一の公共事業に雇用されている限り継続勤務しているとみなされる。(通達)
- いわゆる競走事業従事員については、概ね毎月就労すべき日が存し、かつ、雇用保険法に基づく日雇労働求職者給付金の支給を受ける等継続勤務を否定する事実が存しない場合に継続勤務と解される。(通達)
- 紹介予定派遣により派遣されていた派遣労働者が、引き続いて当該派遣先に雇用された場合、当該紹介予定派遣期間については、年次有給休暇の付与要件である継続勤務したものとして取り扱わなくてもよい。(通達)
全労働日とは?
全労働日は、労働契約上労働義務がある日のことであり、一般には雇い入れの日から6箇月又は1年ごとに区分した各期間の総暦日数から次の各日を除いた日をいう。
イ 所定休日(その日に休日労働をしていても労働日には含めない)
ロ 使用者の責めに帰すべき事由による休業日
ハ 正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
出勤とは?
年次有給休暇の発生要件の計算の基礎となる「出勤日」は、単に「会社に出勤した日」をいうのではなく、以下の点で異なる。
イ 出勤日は労働日(労働の義務のある日)の内で出勤した日をいう。休日は労働日ではないので、たとえ休日に出勤していたとしてもその日は出勤日に含めない(労働日でない出勤日はあり得ない。)
ロ 次に掲げる休業については、出勤したものとみなされることになっているのでこれらの休業日は出勤日に含めなければならない。(通達)
Ⅰ 業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業した期間
Ⅱ 育児休業期間
Ⅲ 介護休業期間
Ⅳ 産前産後の休業期間
Ⅴ 年次有給休暇の取得日
- 産前の休業は、産前6週間について取得することができるが、予定の出産よりも遅れて分娩し、結果的には産前6週間を超える休業となった場合でもその休業日は出勤したものとみなす。 前記以外の休業、例えば生理休業日は欠勤扱いにしてよい。(通達)
- 出勤率を算定する場合、遅刻・早退をした日を欠勤した日として取り扱うことは認められていない。
- 出張中、旅行のみに費やし、業務に従事しなかった日も出勤日に算入する。
- 使用者の責めに帰すべき事由による休業の日は、労働日にも出勤日にも算入しない。
②付与日数
a 6箇月継続勤務→ 10労働日の年次有給休暇を付与
b 1年6箇月以上継続勤務→ 6箇月経過日から起算した継続勤務年数1年ごとに、10労働日に次の表に応じ、右欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を付与
6箇月経過日から起算した継続勤務年数 | 労働日 |
---|---|
1年 | 1労働日 |
2年 | 2労働日 |
3年 | 4労働日 |
4年 | 6労働日 |
5年 | 8労働日 |
6年以上 | 10労働日 |
年次有給休暇の付与日数は具体的には次のようになる。
勤続年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5 以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
- 未成年者の認定職業訓練の訓練生については、最初の付与日数は10労働日ではなく12労働日となる(法72条)
- 6箇月経過日から1年ごとに区別した各期間(最後に1年未満の期間が生じたときは当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の8割未満である者に対しては、当該初日以後の1年間においては有給休暇を与える必要はない。
- 本条の「労働日」とは、原則として暦日計算による。通常の日勤者の勤務が時間外労働によって翌日の午前2時までに及んだ場合、当該翌日の勤務を免除しても、暦による1労働日単位の休息が与えられたことにならず、年次有給休暇を与えたことにならない。(通達)
- 1勤務16時間隔日勤務や1勤務24時間の一昼夜交替勤務で1勤務が2暦日にわたる場合は、暦日原則が適用され、8割出勤の要件たる全労働日についても当該1勤務の免除が2労働日の年次有給休暇の付与とされる。なお、この場合の手当(休暇中の賃金)については、2労働日分の平均賃金を支給しなくてはならないが、これは結局1勤務分に相当することは言うまでもない(通達)
- 年度途中に退職する従業員に付与する年次有給休暇の日数も、法定の付与日数でなければならず、年度当初から退職時期までの月数で按分した日数では足りない。
- 年次有給休暇の買い上げの予約をして労働者が請求できる年次有給休暇の日数を減じ又は日数を与えないことは本条違反である。(通達)
- 法39条に定められた年次有給休暇日数を超える日数を労使間で協約しているときは、その超過日数分については、法39条によらず労使間で定めるところによって取り扱って差し支えない。(通達)
- 定年等で1年の途中で退職することが明らかであっても付与すべき日数を減じてはならない。(判例)
③年次有給休暇の繰越
年次有給休暇の権利は、2年で時効により消滅する。(法115条)従って年次有給休暇をその年度内に全部取得しなかった場合、その未消化日数については、翌年度に限り繰り越すことができる。
- 年次有給休暇を入社日に5日、入社6箇月経過後に5日付与した場合、年次有給休暇の時効の起算日は、取得可能となった時点であることから、入社時に付与された5日については、入社日、残りの5日については、入社6箇月経過後の日が時効の起算日となる。(通達)
- 労働関係が消滅した場合には、そのときまでに行使されなかった年次有給休暇の請求権は、労働関係の消滅とともに消滅する。(通達)
- 有給休暇を入社日に5日、入社6か月経過後に5日付与した場合、有給休暇の時効の決算日は、取得可能となった時点であるから、入社時に付与された5日については入社日、残りの5日については、入社6か月経過後の日が時効の起算日となる。
④年次有給休暇の発生に基準日を設ける場合
年次有給休暇の斉一的取扱い(一律の基準日を定めて付与すること)や分割付与(初年度において日数の一部を法定の基準日以前に付与すること)については、以下の要件を満たした場合に行うことができる(通達)
①斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。
②次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。
斉一的付与の事例 | |
---|---|
①4月1日に入社…10日付与 ②翌年の4月1日…11日付与 |
①で10日付与している場合、入社6か月後に労働者からの請求があっても付与する必要はない。 |
①12月1日入社…付与せず ②翌年4月1日…10日付与 ③翌々年4月1日…11日付与 |
②で出勤率を算定する際には短縮された期間(翌年の4月1日から5月31日までの期間)は全期間出勤したものとみなさなければならない(12月1日から翌年の3月31日までの4ヶ月間の実績のみで算定することでは足りない) |
分割付与の事例 | |
---|---|
①4月1日に入社…5日付与 ②10月1日…5日付与 ③翌年4月1日…11日付与 |
③で付与せず、入社1年6か月後に11日付与することでは足りない |
(2)年次有給休暇の比例付与(法39条3項)
週の所定労働日数が、通常の労働者に比べて少ない労働者等についても、各人の所定労働日数に比例して年次有給休暇を付与する制度が設けられている。
①対象労働者
週の所定労働時間が30時間未満であり、かつ、次のいずれかに該当する者
a 1週間の所定労働日数が4日以下
b 週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合は、1年間の所定日数が216日以下の者
- 1日の労働時間が4時間であっても週5日勤務していれば、比例付与の対象とはならないので、一般の労働者と同じ日数を付与しなければならない。
- 週4日の勤務であっても1日8時間勤務であれば、1週間の労働時間が30時間以上になるので、比例付与の対象にはならず、一般の労働者と同じ日数を付与しなければならない。
- 年次有給休暇の権利は、基準日{6箇月経過日(雇入れの日から起算して6箇月を超えて継続勤務するに至った日)、6箇月経過日から起算した継続勤務年数が1年となった日(雇入れの日から起算して1年6箇月を超えて勤務するに至った日)等}に発生するので、基準日において予定されている所定労働日数に応じた日数の年次有給休暇が付与されなければならない。従って、入社時に比例付与の対象者(短時間労働者)であったとしても6箇月経過日に比例付与の対象者でなくなっていたとすれば、10日の年次有給休暇を付与しなければならない。逆に、6箇月経過日に比例付与の対象者であれば、年度の途中(その後1年以内)に比例付与の対象者でなくなったとしても、付与日数を増加させる必要はない(通達)
- 月に1、2回の勤務のように年間の所定労働日数が48日未満の場合、年次有給休暇の付与義務はない。
②要件
通常の労働者と同様である。
③付与日数
所定労働日数に応じて、最低1日から最高15日までの日数が定められており、具体的には次表のようになる。
所定労働日数 | 勤続年数(年) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
週 | 1年間 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3・5 | 4.5 | 5.5 | 6.5 以上 |
4日 |
169~216日 |
7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 |
121~168日 |
5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 |
73~120日 |
3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 |
48~ 72日 |
1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
- 非定型的パートタイムヘルパー(非定型的パートタイムの訪問介護労働者)等について年次有給休暇が比例付与されるに数は、原則として基準日において予定されている今後1年間の所定労働日数に応じた日数であるが、予定されている所定労働日数を算出しがたい場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出することとして差し支えない。従って、例えば、雇入れの日から起算して6箇月経過後に付与される
- 年次有給休暇の日数については、過去6箇月の労働日数の実績を2倍したものを「1年間の所定労働日数」とみなして判断することで差し支えない(通達)
(3)年次有給休暇の時間単位付与(法39条4項)
使用者は以下の事項を規定した労使協定を締結することにより、労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、年に5日を限度として、時間を単位として有給休暇を与えることができる。
①時間単位年休の対象労働者の範囲
②時間単位年休の日数
③時間単位年休1日の時間数
④1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数
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- 年次有給休暇は、1労働日を単位とするものであるから、使用者は、労働者に半日単位で付与する義務はないが、請求があった場合に半日単位で与えても差し支えない(通達)
- 年次有給休暇を半日単位で付与する際の区分方法については、昼の休憩時間を挟んで午前半休、午後半休とするケースが一般的ではるが、時間が等しくならないことがほとんどである。いずれの半休を取得した場合であっても、年次有給休暇は0.5日消化されることになるので不公平感があるが労使が合意して運用されているのであれば法に抵触するものではない。不公平感を感じるようであれば、そこで、御社の場合は、午前半休を取得した場合は14時からの勤務とし、午後半休を取得した場合は、14時までの勤務とするなど労働時間が同じになるように調整することも考えられる。(その旨を就業規則に記載したうえで、届出義務のある事業所においては、労働基準監督署への届出を行なう必要がある)
(4)時季の指定(法39条5項)
①労働者の時季指定権
使用者は、第39条第1項から第3項までの規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることできる。
- 年次有給休暇の権利は、法定要件を満たした場合法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまってはじめて生ずるものではない。また、法39条4項の請求とは休暇の時季を指定するということであり、その趣旨は、休暇の時季の指定に他ならない。(判例)
- 他の事業場における争議行為に休暇をとって参加するような場合は、休暇をとる行為そのものが業務の正常な運営を阻害する行為になるわけでないため、このような場合の年次有給休暇の請求は正当な年休権の行使であると解する。(判例)
- 事業所における代替勤務者確保のための対応等を考慮し、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保することが困難であると客観的に認められるときは、代替勤務者確保のために何らかの具体的行動を取らなくても、使用者がした時季変更権の行使は違法ではない(判例)
- 労働者の年次有給休暇の請求(時季指定)に対する使用者の時季変更権の行使が労働者の指定した休暇期間が開始し又は経過した後にされた場合であっても、労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時期変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときは、それが事前になされなかったことのゆえに直ちに不適法となるものでなく、客観的に当該変更権を行使しうる自由が存し、かつ、その行使が遅滞なくなされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力を認めるのが相当である。(通達)
- 負傷又は疾病等により長期療養中の者が休業期間中年次有給休暇を請求したときは、年次有給休暇を労働者が病気欠勤等に充てることが認められれいることから、休業期間中年次有給休暇を請求した労働者に年次有給休暇を与えなければならない。(通達)
- 有給休暇は、賃金の減収を伴うことなく労働義務の免除をうけるものであるから休日その他労働義務の課せられていない日については、これを行使する余地がない。休職発令を受けた労働者は労働の義務が免除されているから、その労働者は年次有給休暇を請求することはできない。(通達)
- 年次有給休暇は、労働者がその全部を行使する前に解雇され、又は退職する場合には、その効力が発生するまでの間(解雇予告期間中を含む)に行使しない限り消滅する。(通達)
②使用者の時季変更権
請求された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては他の時季に与える(変更)することができる。また、年度を超えて変更することもできる(通達)
- 使用者の時季変更権は、労働者の解雇予告日を超えて行使することができない。(通達)
- 派遣労働者の年次有給休暇について、事業の正常な運営が妨げられるかどうかの判断は、派遣元の事業についてなされる。派遣中の労働者が派遣先の事業において就労しないことが派遣先の事業の正常な運営を妨げる場合であっても、派遣元の事業との関係においては事業の正常な運営を妨げる場合に当たらない場合もありうるので、代替労働者の派遣の可能性も含めて派遣元の事業の正常な運営を妨げるかどうかを判断することとなる。(通達)
(5)年次有給休暇の計画的付与(法39条6項)
労使協定により年次有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分については次のような方法で取得させることができる。
①事業場全体の休業による一斉付与
② 班別の交替制付与
③ 年次有給休暇付与計画表による個人別付与 等
- 当該労使協定の届出は不要である。
- 労使協定の効力は、労使協定を締結しなかった少数組合の組合員にも及ぶ。従って、当該組合員の場合も、労使協定に定める時季に取得しなければならず、変更することも出来ない。
- 労使協定で定めるところにより計画的付与がなされたときは、この年次有給休暇については、労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権ともに行使できない。(通達)
- 年次有給休暇の計画的付与の対象となる5日を超える部分には、前年度から繰り越された日数がある場合には、当該繰越分も含む。(通達)
- 年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、育児休業申出後には育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はない。また、育児休業申出前に育児休業期間中の日について時季指定や労使協定に基づく計画的付与が行われた場合には、当該日には年次有給休暇を取得したものと解され、当該日に係る賃金支払日については、使用者に賃金支払の義務が生じる(通達)
- 年次有給休暇の計画的付与による年次有給休暇の権利のない者を休業させた場合は休業手当の支払義務が生じる
- 年次有給休暇の計画的付与を行う場合は、これにより年次有給休暇を与えられる者の勤続月数が6月に満たない場合は、その期間は全期間出勤したものとみなされる。(通達)
- 計画的付与は、当該付与日が労働日であることを前提に行われるものであり、その前に退職することが予定されている者については、退職後を付与日とする計画的付与は出来ない。従って、退職予定者が計画的付与前に計画日数分の年次有給休暇を請求した場合には、これを拒否できない(通達)
- 計画的付与の対象となる年次有給休暇の日数には、前年繰越分も含まれる。また、比例付与されたものでも差し支えない(通達)
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(6)年次有給休暇中の賃金(法39条7項)
使用者は、年次有給休暇中の賃金については次の3つを用いることができる。
② 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
③ 健康保険法の規定による標準報酬日額に相当する金額
- 上記のいずれを用いるかは就業規則その他これに準ずるものに定めることが必要であり、さらに③を用いる場合は、労使協定を締結する必要がある。
- 当該労使協定の届出は不要である。
- ③を用いる場合にも就業規則等に定める必要があるのは年次有給休暇中の賃金は就業規則の絶対的記載事項として賃金に該当するためである。
- ③によることを労使協定で定めた場合は、必ずその額を支払わなければならない。
- 変形労働時間制を採用している事業場における時給制労働者の変形期間中における「通常の賃金」は、各日の所定労働時間に応じて算定される(通達)
- 「通常の賃金」は、時間によって定められた賃金については、その金額(時給額)に年次有給休暇取得日の所定労働時間数を乗じた金額とされる(則25条)。従って、毎日の所定労働時間が異なるパートタイマーの年次有給休暇中の賃金は、所定労働時間が3時間の日は3時間分の賃金を、5時間の日には5時間分の賃金を支払う。
- 年次有給休暇中の賃金は、あくまで年次有給休暇取得日における契約内容によって支払わなければならない。1日4時間勤務の時間給制の労働者の勤務を1日6時間勤務に変更した場合は、4時間勤務のときに発生した年次有給休暇であっても、6時間勤務になった後に取得した場合は、6時間分の賃金を支払わなければならない。
- 「通常の賃金」とは、次の方法により計算した金額である(則25条)。
1)時間によって定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額
2)日によって定められた賃金については、その金額
3)週によって定められた賃金については、その金額をその週の所定労働日数で除した金額
4)月によって定められた賃金については、その金額をつきの所定労働に数で除した金額
5)月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、1)~4)に準じて算定した金額
6)出来高払制そのほかの請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によって計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における1日平均所定労働時間数を乗じた金額
7)労働者の受ける賃金が1)~6)の2以上の賃金によりなる場合には、その部分について1)~6)によってそれぞれ算定した金額の合計額
(全額歩合給の例)
全額月額基本給20万円の従業員が1日有給休暇を取得した場合、欠勤控除の処理をしないだけで済むが、全額歩合給で月額20万円の従業員の場合、その月200時間(残業を含む)働き20万円の歩合給を得ていたとすると、
1時間当たりの歩合給は 20万円÷200時間=1,000円となり、所定労働時間を8時間であれば、
1,000円×8時間=8,000円を1日の年次有給休暇として支払う必要がある。
(7)不利益取扱いの禁止(法附則136条)
使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
- この規定に関して罰則は設けられていない。
- 年次有給休暇を取得した日が属する月は精皆勤手当の対象としないというのは本条に違反する。
- 年次有給休暇を買い上げることは法第39条違反となるが、法定のに数を超える分については労使間で定めるところによって取り扱うことができる(通達)
- 法第41条該当者にも年次有給休暇を与えなければならない。
- 土曜日に年次有給休暇を取得したら、これを半日消化として、土曜日の年次有給休暇が2回で年次有給休暇1日として取り扱うことは、労働基準法を上回る日数を与えることになるので差し支えない。
- 年次有給休暇をどのように利用するかは、労働者の自由なので、他の事業場における争議行為に参加するための休暇であっても差し支えない(通達)
- 労働者がその所属の事業場においてその業務の正常な運営の阻害を目的として一斉に休暇を提出して職場を放棄する場合は、年次有給休暇に名を借りた同盟罷業に他ならないから、それは年次有給休暇権の行使ではない。(労働者が他の事業場における争議行為に参加するような場合には年次有給休暇有給の取得を請求することができる)(通達)
- 休職発令により労働の義務を免除されている者が年次有給休暇を請求したときは、労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地がないことから、年次有給休暇を与える必要がない(通達)
- 年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるのであることから、育児休業申出後には、育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地がない(年次有給休暇を与える必要がない)。
- 年次有給休暇の権利を有する労働者が、解雇の予告を受けたときは、年次有給休暇の権利は予告期間中に行使しなければ消滅する(通達)
- 不可抗力的事由による休業期間又は使用者の責めに帰すべき事由による休業期間については、それらの事由によって既に労働義務がなくなる状態が確保しているのであれば、このような日に重ねて労働義務を免除する年次有給休暇を取ることは本条の趣旨とするところではなく、年次有給休暇を与えなくても本条違反とはならない。しかしながら、これらの休業期間中は、賃金が支払われないか又は100分の60の賃金しか支払われない場合があり、これがため労働者の通常の収入が減少する結果となるので、100%の賃金収入が保障される年次有給休暇との振替が現実問題として提起されるものである。この問題については、当日がこのような休業になることを予知しないときに休暇を請求し、これに対する時期変更権の行使がなかった場合には、当該労働者については、年次有給休暇による休業と観念され、これが無効となることはないので、これと均衡上も、事後における年次有給休暇との振替を認めても差し支えないと考えられる。なお、会社都合による休業のように第26条に定める休業手当が支給されなければならないばあいについて、これを年次有給休暇と振替えた場合は、当該労働者について賃金が100%支払われる結果、別に休業手当を支払う義務は免れるものと考えられる。(通達)
- 年次有給休暇の利用目的は労基法の感知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である(判例)
- いわゆる一斉休暇闘争は、年次有給休暇に名を借りた同盟罷業に他ならず、年休の行使でもなく、使用者の時季変更権の行使もありえない(判例)。
- 当該労働者の所属事業場以外の事業場における争議行為に年休中の労働者が参加したか否かは何ら年次有給休暇の成否に影響するところはない(判例)